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第189回 ことばのちから

「ことばコレクター」 ほるぷ出版 2022年5月発行 34ページ
ピーター・レイノルズ/作 なかがわちひろ/訳
原著「THE WORD COLLECTOR」 Peter H. Reynolds 2018年

切手・コイン・石・絵・虫・カード・本・・・・などなどいろんなものを集める人たちのことをコレクターといいます。
この絵本の主人公ジェロームは、ことばコレクターです。
ことばを集めるのが大好き。ひびきがきれいな、きらきら光っているような、はずむような、どきっとするような、絵をそえたくなるような・・・そんなわくわくすることばをメモして集めてます。

集めたことばを、まずは単語ひとつひとつを楽しみます。そしてお次はそれぞれのことばをつなげていきます。
「はればれとした」「雨雲」
「こぢんまりした」「巨人」
「しずかな」「オーケストラ」
関係なさそうな言葉同士で並べると、なおのこと想像がふくらみますね。詩を作って音楽をつけたり、意外な楽しみが生まれます。

そしてジェロームは気がつきます。「ありがとう」「(きっと)だいじょうぶだよ!」「どうしたの?」毎日使うありふれた言葉にこそ力があることに。
たくさん言葉を知ることで、感謝する・応援する・心配する・・自分の気持ちや考えを伝えるのが上手になることを学びました。
最後にジェロームは、丘の上から、集めたことばのメモをすべてほうりなげ、解き放ちます。
「ジェロームがどれほど満足していたかをあらわすことばは、どこにもありませんでした。」

言葉コレクターにも思い浮かばない・ことばでは表現できない、というのが面白いじゃありませんか!ことばだけが世界へのツールじゃないのですね。
そして言葉は、好意だけでなく悪意も伝えることもできるということ。言葉は力をもっていて、使い方によって相手を傷つけることできます。
言うんじゃなかったなあ・メールにあんなこと書くんじゃなかったなあ、なんてこと、わたしは結構あります(恥ずかしながら)。皆さんも経験あるのじゃないでしょうか。言葉をたくさん知っていても、上手に使わないといけません。
そして、後見返しの作者の言葉。
「きみのこころに ひびくことばを みつけて だれかに つたえてごらん。せかいが もっと すてきなところに なるはずだから。」
豊かな世界になるように、という作者の願いに胸があったまります。
原著(英語版)では、どういう言葉になってるのかも知りたくなります。
人が言葉を使って、世界に結びついてく過程をじっくりみせてくれる絵本でした。

作者のピーター・レイノルズさんの他の作品(ほかにも挿絵をした本たくさんあり)
「てん」「っぽい」「ほしをめざして」「ローズのにわ」「ぼくたちの春と夏と秋と冬」「そらのいろって」「ぼくはここにいる」「いちばんちいさなクリスマスプレゼント」「びじゅつかんへいこう」「こころのおと」「ゆめみるハッピードリーマー」「すてきなテーブル」

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第171回 みんしゅしゅぎってなんだろか

「どうぶつせんきょ」 ほるぷ出版 2021年6月発行 44ページ
アンドレ・ホドリゲス、ラリッサ・ヒベイロ、パウラ・デスグアウド、ペドロ・マルクン/作 木下眞穂/訳 林大介/監修・解説
原著「A Eleição dos Bichos」 Andre Rodrigues, Larissa Ribeiro, Paula Desguald, Pedro Markun 2018年

今回ご紹介したい絵本は「選挙」がテーマです。絵本でこのテーマ?だいじょうぶ?とおもっていたんですが、たいへんわかりやすく楽しい。
王様のライオンが、勝手に川をせきとめて、自分の巣穴の前にプールを作ったんです。川下には、水が流れてきません。ひどい勝手ですよね!これには我慢の限界、怒った動物たちは、デモ(みんなで道を行進し、伝えたいことを主張します)をしました。だけど、ライオンは何を言われてもへっちゃら。(話が全く通じない、こういう政治家のかたいますよね・・・・)
森のみんなは、ライオン以外の動物にリーダーになってもらいたい。そこで賢いフクロウが選挙を提案しました。
その土地のリーダーになりたいものは、立候補して、選挙運動をし自分の考えを伝える。
そして、みんな(有権者)は、立候補した人(候補者)に投票する。
たくさん投票をあつめたものが勝ち!みんなのリーダー(大統領)になります。

=選挙の規則=
1)選挙は、春におこなう
2)動物は、誰でも立候補できる
3)ひとり一票、投票できる
4)投票用紙は、誰にも見せない
5)票を一番多く集めたものが勝つ
6)候補者と有権者は、お互いに贈り物をあげたり、もらったりしない
7)対立する動物を食べてはいけない

サル、ナマケモノ、ヘビが大統領に立候補しました。ずうずうしくもライオンも参加します。誰にでも立候補する権利があるので、拒否できないのです。

選挙運動が始まりました。
テレビ番組にでたり、他の動物と一緒に自撮りしたり(自撮りって選挙活動なのね)、チラシを配ったり、意見を聞いたり、集会を開いて互いの悪口を言い合ったり(「それはいいことではありません」の注釈あり)、候補者同士で討論をする会も開きました。
立候補者もみんな頑張っています。有権者だってみんな真剣です。どの候補者が住んでいるこの森を良くしてくれるでしょうか?
この土地に住むどの動物にも望みがあります。

この絵本は、ブラジルで書かれました。4~11歳の子どもたちが実際に投票し、当選した動物がリーダーになっています。(当選した動物は秘密にしておきましょうね・・・)
民主主義ってなに?ということがよく理解できます。
巻末の解説に、「自分の想いや考えを大事にし、周りの人と話し合ってください。そして、自分とは異なる考えや願いと出会ったら、それを否定するのではなく、どうしてそのように考えるのかを丁寧に話し合い、違いを認め合い、おたがいの理解を深める努力をしてください。なぜなら、民主主義は、わたしたちひとりひひとりの意識によって支えられているのですから。」
たくさんの意見をまとめたり、”理解を深める努力をする”のは、なかなか難しいですが、ケンカしたり戦争するのよりはずっといいですもんね。人だから難しい、でも人だからこそできる、そう信じたいです。
カバーのうしろソデに作者の方たちの一言がのっています。「民主主義は、いままでの中で一番良い仕組みとおもう。でも今後もっとよい方法が発明されるだろう」とおっしゃっている方がいました。これが一番シみた気がします。

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第126回 ねむれない、そんな夜に

「よぞらをみあげて」 ほるぷ出版 2009年2月発行 32ページ
ジョナサン・ビーン/作 さくまゆみこ/訳
原著「At Night」 Jonathan Bean 2007年

ベッドに入ったけれど、眠れない。父さんも母さんも、妹や弟たちも眠っている。穏やかな寝息が聞こえてくる。
なのに、わたしは目がぱっちり。うわあ~明日は早起きしなきゃならない、なんていうときだとかなり辛い状況ですね。
夜風に誘われて、屋上にでた女の子。そうそう、こちらのお宅は、一軒家で屋上があるのです。洗濯ものは広く干せるし、涼めそうだし、夜は天体観測できそうだし、読書したり日光を浴びたりといろいろできそうで、すごく贅沢に感じますね。
部屋を通り抜ける風は屋上からきていると気がついて、お布団を持って屋上へ。椅子を並べ布団を敷いて空を見上げます。
なんてうらやましい。
月あかりが、わたしを、町いったいを照らしています。
「夜の空は広々として、世界がどこまでもどこまでもつながっていくのを感じます」
太陽の輝く昼間より、そういう感じになるのはわかるような気がします。たくさんの人が寝ていて静かな夜。自分ひとりしか起きていない。近くには誰もいないけれど、遠くの誰かにおもいをはせる。誰かにきっとおもいが届くような、気持ちがつながるような、そんな夜。夜に情熱的な手紙を書いてしまうの原理ですね。
娘が屋上に出たのに気がついたおかあさんは、コーヒー(かなにか温かい飲みもの)片手に様子を見に来てくれます。そういうのもいいですねえ。
いいですねェ~、わたしなら、ビールをおともにしたいです。夜空を眺めて乾杯、ああ、なんて楽しそう!



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第110回 かきねをこえてすぐそこの文化の違いを楽しむ

著者のバルト・ムイヤールトはベルギー王国、挿絵のアンナ・ヘグルンドはスウェーデンの出身です。
ベルギーはオランダ語(フラマン語)・フランス語・ドイツ語の3つの公用語の地域があります。日本で生まれ日本語で育った私には、同じ国で3カ国も使われるなんてとても不思議に感じてしまいます。話す言語が違っても一つの国にまとまるということに安心します。ちなみにムイヤールトさんはフラマン語を話す地域ブリュージュの出身。

「かきねのむこうはアフリカ」 ほるぷ出版 2001年8月発行 32ページ
バルト・ムイヤールト/文 アンナ・ヘグルンド/絵 佐伯愛子/訳
原著「AFRIKA ACHTER HET HEK」 Bart Moeyaert Anna Hoglund 原著の発行年記載なし

同じ作りの建物が8軒並んだ家とその裏には庭がある、そのうちの一軒にぼくは住んでいた。たいていのうちの庭は、物置があって芝生がきれいに刈り込まれ、菜園が作ってあるんだけれど、隣のおうちの庭はほったらかしで草がぼうぼう生えている。そのおうちには、フランス語を話す男の人が住んでいて、きれいな茶色の肌をした奥さんがいて名前は、デジレーさん。ぼくとぼくの家族はフランス語を話せないので、お隣さんとは今まで仲良くしてこなかったようですね。垣根ごしに隣家を観察してます。興味津々なのがなんだかおかしい。
4人の子供とデジレーさんは、陽がさすと、草が生えっぱなしの庭の真ん中に椅子を持ち出して過ごします。挿絵では、デジレーさんの表情は明るくありません。元気のない思いつめた表情なのが心配です。

デジレーさんは、ある雨の日、自分の国のことばの歌を歌いながら、庭の物置を壊し始めます。彼女のお国は、アフリカのカメルーンなのです。物置を壊しているのを垣根ごしに観察していたぼくににっこり笑います。満足そうです。いつも悲しげな表情だったのに楽しそうに過ごしているので読んでいてほっとします。
それから、穴を掘り粘土をねって、家を作り始めます。楽しそうに口笛を吹きながら、何日も何日も。
粘土が乾けば、ブルドーザーを使っても壊れないんだそうです。家となるのですからやはり頑丈に出来上がるんですね。
同じ作りの家と庭に住むご近所さんたちは、変わったことをしだしたデジレーさんに、ルール違反をしている!と怒っています。
ぼくは垣根ごしに、デジレーさんの粘土の家作りを見守ります。ぼくのお父さん・お母さんも、興味津々。
アフリカってどんな国なんだろう?って想像するぼく。ライオンとサル。それ以外は何も知らないんだと気がつくぼく。

両親がデジレーさんに肯定的な口調なのも安心します。いつも悲しげなデジレーさんが楽しそうだから、ぼくの両親も興味を持って「お手伝いましょうか?」なんて言い出したり、雨の中を働くデジレーさんにお茶をあげたりしたのかな。自分たちのおうちのお隣さん、垣根を超えたらすぐそこにあるちょっと違う知らない世界。自分たちとは違う他国の文化に興味を持って受け入れる、ってちょっと違和感や抵抗感を感じたりしてしまうこともあると思いますが、異質だ!と排除するより楽しい。素敵な一家ですね。
デジレーさんが作った粘土のおうちは、カメルーンが懐かしくて寂しい時、家に飽きた時、過ごすんだそうです。別荘ですね。いいなあ。粘土のおうちに招かれたら、わたしはすごくうれしくってはしゃいじゃいそうです。
前見返しとうしろ見返しの挿絵に違いがあるのが楽しい。



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第97回 抽象絵画がちょっと身近になるかもしれない

ワシリー・カンディンスキー(1866年-1944年)のものがたりです。
「抽象絵画」の創始者といわれています。
抽象画はなかなか理解されず、挫折を経験しつつ絵を描くことをやめませんでした。

「にぎやかなえのぐばこ カンディンスキーの うたう色たち」 ほるぷ出版 2016年9月発行 32ページ
バーブ・ローゼンストック/文 メアリー・グランプレ/絵 なかがわちひろ(中川千尋)/訳

ワーシャ(ワシリーの愛称)は、ロシア出身、裕福なおうちに生まれました。ですので、立派な家の跡取りとして、音楽や算数の勉強をたっぷりさせられていました。勉強のうちのひとつとして、おばが絵を描くことを教えてくれました。不思議なことに、絵の具をパレットの上で混ぜ合わせると音がしたそうです。さらに色んな色をまぜあわせると、音楽となりました。
レモン色のまるをかくと、ピアノの一番高い音。りりん りりん りんりんりん。
銀色のしかくはチェロの一番低い音。ずーん ずーん。
赤い線は波の音。ざっぱーん!
音楽にあわせて描いた絵を、両親はまったく理解してくれませんでした。絵を描くことを諦め、おとなになって、法律学者になりました。
あるとき、オペラで聴いた音楽が色となって頭の中で踊りだしました。
それはそれは美しかったのでしょうねえ。ワーシャは、やはり画家として生きたいと思うようになったのでした。
「わたしは、自分を解放した。家や木をかこうとは考えずに、パレットナイフでカンバスに えのぐの線や点をぬりつけて、できるかぎり力づよく、その色とかたちをうたわせた」
色から音が聞こえたり、音楽をきくと色が見えたり、言葉をみると味やにおいを感じたり、そのように感じる現象のことを「共感覚」というそうです。カンディンスキーもそうだったのではないかと言われています。

正直に申し上げますと、わたしも抽象画をどうやってみたらよいのかわかりませんでした。意味をみいだそうとしてしまうのがよくないのでしょうか。まさに「それは家?それとも花?いったい何をかいたのかさっぱりわからん」の状態でした。ですが、この絵本を読んで少し身近になったようにおもいます。
最後のページの訳者あとがきに「なんとなくひかれた作品だけをみることにしています。全部みると疲れてしまうので半分以上はパス。・・ まずは、なにも考えずにぼんやりと、音楽に身をひたすようなきもちで向きあうのが、私の抽象画のたのしみかたです。」
なるほど、全部を理解しようとしなくても、わからなくっても、いっそ見なくっても、いいんだな。なんだか安心しますね。
最後にカンディンスキーの作品が小さいですが4点も掲載されています。よろしければどうぞながめてみてください。
わたしは「白いジグザグ」が面白いなあと思えました。ちょっと進歩できたみたいで結構うれしいのです。