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第158回 アポロ!!

宇宙飛行士ではない民間人でも宇宙旅行が夢ではない(高額ですけれど)とか、火星移住計画進行中?とか、アメリカ宇宙軍が編成されたとか、宇宙に関するニュースをよくきく今日このごろです。
そしてこれは人類が初めて月へと旅をした物語の絵本なのである。

「月へ アポロ11号のはるかなる旅」 偕成社 2012年2月発行 40ページ
ブライアン・フロッカ/作・絵 日暮雅通/訳
原著「MOON SHOT THE FLIGHT OF APOLLO11」 Brian Floca 2009年

1969年7月16日、3人の宇宙飛行士が、アポロ11号に乗って、月に向かって飛び出した。
今から(2021年現在)52年前のお話です。地球から月まで往復で「すべてがうまくいけば、1週間の旅」。日数だけで考えると意外と近いなあ、という印象。
本文は簡潔なやわらかい言葉でわかりやすい。リアルな挿し絵がものをいう感じですね。
船長のアームストロング、パイロットのコリンズとオルドリンが、月へと向かう大冒険。地球から離れるに従い段階的に切り離されていくロケット、宇宙の暗さ、冷たさ。月へと向かう思い。
船内のいろんなことも。物品にマジックテープがはりつけられている理由。無重力状態の船内での食事やトイレするコツ。船内、やはり臭ってくるそうです。う~ん。

月への着陸の冒険の臨場感はたまりません。機器の不具合によって着陸に時間がかかり制限時間あと60秒しかない!という状況になっていたのだそうです。
「ヒューストン、こちらは〈静かの海〉。イーグル(ワシ)は舞い降りた。」「ついさっき、駐車場に車をとめたとでもいうような、おちついた声。 でも地球のみんなは大さわぎだ!」ひゅ~!
月からの帰りが2ページなのがあっさりで残念です。もうちょっとページがあってもよかったのでは。
前・後ろの見返しに、サターン5型打ち上げロケット・アポロ宇宙船・月からの離陸のこと・ソ連×アメリカ宇宙開発競争・アポロ計画のことなども少しずつですが解説あり、情報満載。
1972年12月から人類は月に降り立っていないそうです。これから身近になっていくのでしょう。やっぱり行けるなら行ってみたいものですね。幼い方々がこの絵本を読んで宇宙に興味が湧いたらば幸いと存じます。

著者のブライアン・フロッカの他の作品
「走れ!!機関車」1869年アメリカ大陸横断鉄道に乗った家族のおはなし。当時の列車の旅がどんなだったかわかります。機関室内の描写もアリ!
宇宙開発が題材の読みやすいSFもついでに。(わたし好みですのでお好みに合わなくてもお許しを)
「火星の人/アンディ・ウィアー」映画にもなりました。アクシデントで火星でたった一人、でもへこたれない主人公マークがとにかく魅力的。「夢みる葦笛/上田早夕里」SFいろいろ短編集。「プラネテス(全5巻)/幸村誠」スペースデブリ回収業の青年の成長。マンガです。「タフの方舟(全2巻)/ジョージ・R.R. マーティン」最強の宇宙船・方舟号をめぐる人々と商魂たくましい(猫好き)タフの駆け引きがグッド。ゲーム・オブ・スローンズ作者です。

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第157回 あからん

「あからん ことばさがし絵本」 福音館書店 2017年2月発行 64ページ
西村繁男/作

「あ」から「ん」で『あからん』です。なんだろうって思いましたでしょう。言葉遊び絵本です。50音の「あ」~「ん」を頭に使った言葉の挿し絵がずらりと並びます。
『あ』のページでは、「あんぜんちたいで あさの さいさつ」という文章がついてます。
カエルとヘビが(安全地帯)と表示されたところで挨拶しています。うーんシュールね。
ほかにも、(あしあと)(あめ)(あくび)(あさひ)(あざらし)(あほうどり)(あどばるーん)・・などなど挿し絵が描き込まれています。
昭和な用品もたくさん描き込まれています。(リリアン)はわたしの子供の頃流行りましたよ~。懐かしい。頑張ってつくったけど、できあがったものを何につかったらよいやら?と困惑したものです。
絵を見て、ああっコレなんやっけ?という言葉がでてこないアレが発生しています。もどかしいのです。脳の体操にもよし。
ページ最後に答えものっていますので、安心ですヨ。見落としを発見できるのもグッド。

気に入った文章を何点か。
「のぶし のんびり のだてする」
のんびり・・
「まじょと まじんの まんざい まってました!」
きっと寄席の目玉でしょう。わたしも見にいきた~い!
「ゆきだるまは ゆぶねで ゆめをみます」
雪だるまが湯船で?雪女のおかげかな・・
「るいが るいをよび るいじんえんがやってくる」
たくさん類人猿、集まった。それっぽいのもいてます。
「あかちゃん んんん んーん」
ふんばってるあかちゃんのあか~いお顔が面白い。
西村繁男さんの挿し絵の楽しさが抜群です。

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第156回 命を賭して北極圏への旅

旅がけっこう好きです。若き頃、気ままのんびりなバイク旅行をしたことがございますが、この「北をめざして」の旅は比較にならないほどの壮大さ。生き物たちの命を賭した旅の本、よろしければ手にとってごらんください。

「北をめざして 動物たちの大旅行」 福音館書店 2016年1月発行 52ページ
ニック・ドーソン/作 パトリック・ベンソン/絵 井田徹治(いだてつじ)/訳
原著「NORTH -The Greatest Animal Journey on Earth」 Nick Dowson, Patrick Benson 2011年

北極は南極と違って大陸がありません。(知ってました?わたし知らんかった。)寒いので海が凍りついています。これをアイスキャップといいます。あまりにも寒いのでホッキョクグマ、ホッキョクギツネ、ホッキョクウサギなどのわずかしか生き物しかいないんだそうです。北極点を中心に北極海およびその周辺の土地(半径2600キロ圏内)を北極圏と呼びます。
雪と氷ばかりの北極ですが、夏になると一日中太陽がしずみません。太陽に照らされ水と土が温められ植物が伸びはじめます。海底から栄養たっぷりの水があがり植物プランクトンが大発生。それを求めさらにさらにたくさんの動物たちが集まってくるんですね。寒い寒い場所が一転して食べ物が豊富になり、子どもも育てられるほど豊かな土地となるのです。
春、食べ物を求め、たくさんの動物達が北極圏を目指します。
メキシコからは、コククジラ。8,000キロメートルもの長旅です。しかも旅の間の8週間、何も食べないんだそうですよ。不器用な感じが愛おしいですね・・・ガンバレ!
アジサシは、な・なんと、地球の反対側の南極からですって。ニュージーランドからはオオソリハシシギ。中国からソデグロヅル。
カナダは、カリブーと狼。北の豊かな地を目指すカリブーを追いかけ、狼も北上します。長旅で疲れて弱ったカリブーを狼がいただきます。うーん被食捕食の厳しさを感じますね。
他にも、ニシンなどの魚、イッカクジュウ、アザラシ、ホッキョククジラ、ペンギン、セイウチ、シャチ、ジャコウウシなどなどなど・・・それはそれはたくさんの生き物たちで北極はいっぱい。生命を謳歌します。
やがて9月になると、日がさす時間が短くなり風が吹き気温が下がりはじめます。冬が近づいているのです。またお腹いっぱい食べ力をつけ、暖かい南へ向け長い旅にでるのです。

動物たちの挿し絵がとてもきれいで迫力あります。ホッキョクグマの目のやさしくて愛らしいこと(本物に近くに寄られたら怖いだろうけど)。限られた短い夏、草が萌えるシーンにはなんだかじーんとしてしまいました。

巻末ページは、環境問題について 訳者解説があります。訳者の井田徹治さんは、環境・開発の問題について取材しているジャーナリストです。
石炭や石油を使うことによって、人間は二酸化炭素を排出しています。二酸化炭素などで地球の気温が上がっているのです。北極圏の海氷もどんどん溶け出して小さくなっています・・このままですとホッキョクグマは2100年までに絶滅すると予想されています。もちろんホッキョクグマだけではありません。温暖化により、大かんばつ・大洪水・猛暑などの異常気象を引き起こし大災害が起こって、人間の生活にももちろん影響がでています。(気候変動など信じないなんてとんでもなことを言った政治家がいましたっけ・・ふと思い出しましたけど) 豊かな自然が長く長く維持されることを祈ります。

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第155回 ばけものたちがでてくるよ

「でる でる でるぞ(クローバーえほんシリーズ)」 佼成出版社 2012年6月発行 32ページ
高谷まちこ/筆者

面白いタイトルです。いったい何が「でる」んでしょうか。
おじいさんとおばあさんと猫のマツが住んでる古いやしき。じつは、このやしき、ばけものやしきなのだ。だから、真夜中になると、
でるでるでるぞ~
特に面白いのは、でてくる時の擬音語。「ば、びょーん」なのだ。「じゃ、びーん」もあります。
なんと不思議なオノマトペ。ばけものたちが登場する時に使われるのに思いつくのは、「どろどろ~」とか「でで~ん」とか、ありきたりな感じしかわたしおもいつかない。ひねった面白い表現ですね。考えつくのにずいぶんかかったんじゃないでしょうか。声に出して読んだら小さな人たちが喜んでくれそうです。
ポピュラーどころのオニ、ひとつめこぞう、ろくろくび、あぶらなめ、それに道具のうえきばち、おさら、ちりとり、ぞうりなどもばけものになってます。たぬびこ、というのははじめてみたなあ。みんな愛嬌があって怖くない。かわいいですね。
真夜中、ばけものやしきにどろぼう3人組がやってきます。「金銀小判に、千両箱。お宝 ぜったい さがすんだ!」テンポいい掛け声で、わたしも一緒にとなえたくなるんだなあ。
どろぼうのおやぶんがクモとクモの巣の柄の着物を着ているのが悪そうでかっこいい。
画面右下にばけものたちが集まって、のこのこやってきた奴らをおっぱらおうと、相談中。
当然、撃退します。ばけものって強いんです!世界一安全なセキュリティのたかいおやしきですよね。さらにさらに、2足歩行の猫さんたちもやってきて、みんなで夜を楽しみます。おひさまがのぼるまで。
・・・このおおさわぎの中、寝ているおじいさんとおばあさんがこの中で一番強いんじゃないでしょうか・・・
見返しに登場するばけものたちが紹介されています。名前もわかって楽しいです。

最後のページ、猫とばけものたちのでるぞ~~のポーズがいいです。かわいいけど、一筋縄でいかないぜ? てなかんじの表情が素敵です。なんといってもばけものですからね、かわいいんですが。
この絵本、シリーズがあります。
「でるでるでるぞ ガマでるぞ」ばけものたちの意外な頭脳プレイ!何度か見直して恥ずかしながらやっとカラクリを発見しました。「でるでるでるぞ ねこさらい」猫たちがさらわれる事件発生。ごまもちがおいしそう・・

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第154回 ぼくだけのぶちまけ日記

岩波書店のSTAMPBOOKSシリーズの一冊をご紹介いたします。カナダのYAです。
犯罪を犯した家族を持つ少年のお話です。テーマが重くて辛くて、初めのほうで読むのをやめようかとおもいましたが、主人公をささえる自由で熱量のある魅力的な登場人物たちのおかげで読み通せました。

「ぼくだけのぶちまけ日記 (STAMPBOOKS)」 岩波書店 2020年7月発行 286ページ
スーザン・ニールセン/作 中田いくみ/カバー表紙画 長友恵子/訳
原著「THE RELUCTANT JOURNAL OF THE HENRY K. LARSEN」 Susin Nielsen 2012年

主人公ヘンリー・ラーセンは13歳。雑学が好きなごく普通の少年。毎週金曜日はみんなでプロレス観戦をする父・母・兄の四人家族でした。
今は、引っ越しをしてお父さんと二人暮らし。お母さんは7ヶ月ほど前に起きた事件がきっかけで心のバランスをくずし入院しています。
その事件とは、兄が同級生を銃で殺害しその後その銃で自殺しました。酷いいじめを受けていたのが殺害の理由でした。
ヘンリーは友人を失い、周囲から嫌がらせを受け、両親は職を失い、引っ越しを余儀なくされました。
新しい土地で、新ためてやり直そうとお父さんが提案するも、お母さんは一緒に行かないと言い出し、二人で暮らすことになりました。
兄が起こした事件がばれないよう嘘をつき目立たないよう怯えて暮らす日々。

お、おもい!おもすぎる!
だけどご安心下さい。
その1。同級生のファーリー・ウォンのおかげです。ヘンリー曰く、「見た感じオタク」。度の強い分厚いメガネ、シャツのボタンを上から下まできっちりとめて、きっちりアイロンがかかったズボンを高い位置でベルトをとめている。昔の日本でいうと「優等生」という感じでしょうか。興奮すると踊りだします。彼の愛するものに対する熱量は、ヘンリーをも動かす。
その2。アパートのおとなりに住むアタパトゥさん。元タクシー運転手、スリランカ出身の人です。ヘンリーのうちが父と息子の二人暮らしなのを心配し、作ったお料理を差し入れしてくれます。(ラムカレー、チキンカレー、手作りおやつココナッツバルフィがおいしそう。)
その3。カレンさん。派手なお化粧と服装で最初の印象は悪かったのですが、ヘンリーたちの孤独を受け止めてくれます。
その4。セラピストのセシル。1960年代のファッションと穴あき靴下がやや信頼を損なっていますが、ヘンリーの気持ちを慮ってくれつつも言うべきところはきちんと言うなかなかステキなセラピストです。この小説はヘンリーの書いた日記の形式なのですが、日記をつけ始めるきっかけが彼なのです。
あと、個性的なファッションとキャラクターのアルバータへの恋心もアクセントになってます。
みんな、積極的に関わってきます。テンションが特に高いファーリーのことをうっとうしく感じていたヘンリーですが、人との関わりによって気持ちが癒やされていく過程が優しくて安心します。
ファーリーやアタパトゥさんも好きなプロレスが大きな役割を果たすのも面白いですね。
犯罪を犯した家族・自殺で亡くなった家族がいる、という重くて強いテーマがうまくまとまっていると思います。

「STAMPBOOKS」は10代の若い人たち向けの海外小説作品のシリーズです。イスラエル、イタリア、ベルギー、ハンガリー、スウェーデン、南アフリカ、ドイツ、オーストリアなど邦訳されることの少ない国のYAをとりあげてくれます。末永く続いてほしいシリーズ。頑張って岩波書店さん!