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第172回 本の歴史 カエサルくんたちの発明

「カエサルくんと本のおはなし」 福音館書店 2015年2月発行 32ページ 31×22cm
池上俊一(いけがみしゅんいち)/文 関口喜美(せきぐちよしみ)/絵

知識を得たり、空想を楽しんだり、挿絵を楽しんだり、とにかく素晴らしい「本」。本はどうやって作られたの?という絵本です。
本が好きなしょうたくんが、学校の図書室で、本を開くと・・・小さなおじさんが本の中からでてきました。「わしは、偉大なるローマの将軍、カエサルじゃ」
ユリウス・カエサル、古代ローマ最大の野心家といわれた人物をガイド役にしているのが面白いですよね。
(ちょっとだけ、カエサルについて書いておきましょう。紀元前100年頃・ローマ生まれ。共和政ローマの政治家・軍人・文筆家でした。終身独裁官という大きな権限を持つ役職につき、ぶいぶいいわせていた人です。最期の言葉「ブルータスお前もか」で有名。つまり暗殺されました。紀元前45年から1582年、という長い長い期間、ヨーロッパで使われていた暦法「ユリウス暦」は彼がつくったものです。「ガリア戦記」という簡潔明瞭な文体の遠征記録を著しています。)
かなり血なまぐさそうな人だけど大丈夫かしら、とおもった方はご安心ください。逆ギレだとか恫喝だとかのトラブルはおきません。ちゃんとガイドしてくれます。
で、本からでてきた小さいおじさん・カエサルに、しょうたは「カエサルくんか、よろしく」と言ってます。『カエサルくん』ですって、しょうたくんって豪胆ですねぇ。

今の本の形を「冊子」といいます。紙をたくさん束ねてあってページをめくる、このかたち。
大昔は、「紙」というものがなかったのです。今から2000年以上前、エジプトで作られたパピルスという植物の繊維から作った「パピルス紙」で、最初の本が作られました。
(ちなみに、このパピルス紙の手触りは「ゴワゴワして新聞紙より厚くて硬い」そうです。)
パピルス紙が発明されましたが、まだ、冊子のかたちではありませんでした。横に長く長ぁくはり合わせて、ぐるっと巻いた状態「巻物」になっていました。ですが、ぐるぐると巻いてあるので、読むときや持ち運びが大変です。
本の形が変わっていったのには、図書館と関係があるんじゃぞ、とカエサルくん。
エジプトのアレクサンドリア図書館とペルガモン図書館(今のトルコ)の書物所有数の多さをあらそっていたのです。エジプト王は、ペルガモンに紙のもととなるパピルスを売るのを禁止、という姑息な手を使いました。これにはしょうたくんもいいツッコミいれてます。(ちなみに、カエサルくんがおこした火事がアレクサンドリア図書館の一部を焼いたと言われています。)
これには困ったペルガモン。材料がなくては本を作れない。パピルス紙に代わる「羊皮紙」を発明しました。羊や子牛の皮を伸ばして毛や脂をとって乾かしたものです。ですが、長い年月が経つと、固くなってパリパリになってしまいます。丸めた状態では長期保管に向きません。
短く切ってまとめてとじる「冊子」の状態にしておくと便利、とだんだんにわかってきました。(ちなみに、最初にパピルス紙を蛇腹に折った状態にしたのは、カエサルくん。でもあまり流行らなかったそうです)

それでもまだまだ今の本に至るには技術の向上が必要でした。
一字一字を手書きで書いていたので、一冊作るのにものすごく時間がかかりました。同じものが欲しいとなると、さらに羊皮紙を用意し一字一字を書き写していかねばなりません(同じ様に書き写して作った本を写本といいます)。一冊の本のために15頭の羊が必要なのだそう。とても贅沢で貴重なものだったのです。
今から700~800年ほど前の中国で、羊皮紙よりもっと便利なものが発明されました。木の皮などを材料にして作った「紙」です。安く作れるし、軽いし、薄くて束ねやすいので冊子にするのに向いていました。しかしその紙は破れやすくて、一字一字を書き写していく写本には向いていませんでした。

そしてなんと、活版印刷の発明者グーテンベルクさんも、ちいさいおじさんの姿で登場。活版印刷とは、金属のハンコのようなものを一字一字並べ、インクをつけて刷るという、印刷術なのです。
写本に代わる技術が生まれました。
それをさらに改良したのが、アルドゥスさん。この方も、小さい姿で登場。いろいろ説明してくれます。グーテンベルクの本は、教会で使われる儀式用のもので、大きくて使いづらいし、読みにくい字(フォント)でした。アルドゥスさんは、本を小型化し、読みやすいフォントを作り、そして、本にページの順序の数字をつけました。読みたいところがすぐにわかります。ページをふるのは、今では当たり前ですが、当時は画期的なアイディアだったのですね。

少しですが、電子書籍のお話もでてきます。印刷しない「電子書籍」はなんだか面白くないとつぶやくグーテンベルクさんやアルドゥスさんですが、世界を変えた発明を作った人たちなので、ほんとは興味津々なようです。

カエサルくんシリーズ、他に「カエサルくんとカレンダー 2月はどうしてみじかいの?」があります。上の方で書いた「ユリウス暦」のことです。

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第171回 みんしゅしゅぎってなんだろか

「どうぶつせんきょ」 ほるぷ出版 2021年6月発行 44ページ
アンドレ・ホドリゲス、ラリッサ・ヒベイロ、パウラ・デスグアウド、ペドロ・マルクン/作 木下眞穂/訳 林大介/監修・解説
原著「A Eleição dos Bichos」 Andre Rodrigues, Larissa Ribeiro, Paula Desguald, Pedro Markun 2018年

今回ご紹介したい絵本は「選挙」がテーマです。絵本でこのテーマ?だいじょうぶ?とおもっていたんですが、たいへんわかりやすく楽しい。
王様のライオンが、勝手に川をせきとめて、自分の巣穴の前にプールを作ったんです。川下には、水が流れてきません。ひどい勝手ですよね!これには我慢の限界、怒った動物たちは、デモ(みんなで道を行進し、伝えたいことを主張します)をしました。だけど、ライオンは何を言われてもへっちゃら。(話が全く通じない、こういう政治家のかたいますよね・・・・)
森のみんなは、ライオン以外の動物にリーダーになってもらいたい。そこで賢いフクロウが選挙を提案しました。
その土地のリーダーになりたいものは、立候補して、選挙運動をし自分の考えを伝える。
そして、みんな(有権者)は、立候補した人(候補者)に投票する。
たくさん投票をあつめたものが勝ち!みんなのリーダー(大統領)になります。

=選挙の規則=
1)選挙は、春におこなう
2)動物は、誰でも立候補できる
3)ひとり一票、投票できる
4)投票用紙は、誰にも見せない
5)票を一番多く集めたものが勝つ
6)候補者と有権者は、お互いに贈り物をあげたり、もらったりしない
7)対立する動物を食べてはいけない

サル、ナマケモノ、ヘビが大統領に立候補しました。ずうずうしくもライオンも参加します。誰にでも立候補する権利があるので、拒否できないのです。

選挙運動が始まりました。
テレビ番組にでたり、他の動物と一緒に自撮りしたり(自撮りって選挙活動なのね)、チラシを配ったり、意見を聞いたり、集会を開いて互いの悪口を言い合ったり(「それはいいことではありません」の注釈あり)、候補者同士で討論をする会も開きました。
立候補者もみんな頑張っています。有権者だってみんな真剣です。どの候補者が住んでいるこの森を良くしてくれるでしょうか?
この土地に住むどの動物にも望みがあります。

この絵本は、ブラジルで書かれました。4~11歳の子どもたちが実際に投票し、当選した動物がリーダーになっています。(当選した動物は秘密にしておきましょうね・・・)
民主主義ってなに?ということがよく理解できます。
巻末の解説に、「自分の想いや考えを大事にし、周りの人と話し合ってください。そして、自分とは異なる考えや願いと出会ったら、それを否定するのではなく、どうしてそのように考えるのかを丁寧に話し合い、違いを認め合い、おたがいの理解を深める努力をしてください。なぜなら、民主主義は、わたしたちひとりひひとりの意識によって支えられているのですから。」
たくさんの意見をまとめたり、”理解を深める努力をする”のは、なかなか難しいですが、ケンカしたり戦争するのよりはずっといいですもんね。人だから難しい、でも人だからこそできる、そう信じたいです。
カバーのうしろソデに作者の方たちの一言がのっています。「民主主義は、いままでの中で一番良い仕組みとおもう。でも今後もっとよい方法が発明されるだろう」とおっしゃっている方がいました。これが一番シみた気がします。

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第170回 夏の美しい夜さんぽする

第120回投稿でもとりあげた、アリスン・アトリーの絵本をまたご紹介いたします。最近ミステリばかり読んでいるせいか、物語には何か問題が起こらないといけないような、そんな気がしてしまっています。そういう場合ですと、この絵本はちょいと肩透かしかもしれません。静かな時間を過ごしたい。気分転換に。涼しい夏の夜を味わいたい。そんなとき手にとってみると良い絵本とおもいます。

「むぎばたけ(日本傑作絵本シリーズ)」 福音館書店 1989年7月発行 40ページ
アリスン(アリソン)・アトリー/作 片山健/絵 矢川澄子/訳
原著「THE CORNFIELD From “The Weather Cock, and Other Stories”」 Allison Uttley 1945年

とても静かな静かな物語。ハリネズミが、ウサギとカワネズミを誘って、畑の麦が伸びるのを見に行くおはなしです。
『あたたかい、かぐわしい夏のゆうべ。
空にはお月さま。星が二つ三つ。
そのひかりに、丘のはらっぱは、いちめん 青じろい銀のシーツをひろげたみたいでした。』

夜空に月と星が美しく輝き、あたり一面をほんのり輝かせているの夜の光景が目に浮かびます。
はなうた口ずさみながら、小道をやってくるハリネズミ、とっても上機嫌。
誰にもききとれないくらい、かすかな声で口ずさみます。

『お月さんのランプに
お星さんのロウソク
夜ごとはるばる
さまよう おいら』

昼間の暑い空気がおさまって過ごしやすくなった夏の夜、美しい花や木々が茂る小道を、気ままに散歩するのは素晴らしいでしょう!うきうきと歩くハリネズミの気持ちがわかります。ああ、その感じ、いいですねえ。
道の途中で出会う若いうさぎとの会話が楽しい。「おれ、どうかしちゃってるんだ、月が明るくて飛びはねたくなってとまれない!」のだそうです。それっきり、まっしぐらにかけていってしまいました。元気がありあまる若き衝動、覚えがあります。微笑ましくうらやましいそんな気持ちになりました。

「シモツケソウのしろいかわいい花が背中にしだれかかるアーチの下」「やさしいヤナギランのしげみ」「しっとりとつゆのおりた草地」「スイカズラとノイバラの甘いにおい」「おびただしいムギの穂のさやさやといううつくしい音楽」
麦畑までの野原の道が美しくて、植物に関する言葉を抜書きしてみました。花の甘い香りが漂ってくるような気がします。そして、片山健さんの描く植物がほんとうに見事。のびのび元気よく咲き誇る草花の強い生命力を感じます。前後左右に目を配って歩くウサギの用心深さ(p.21のウサギのジャック、進行方向ではなくこちらを見ている)も表現されていて面白い。

ハリネズミたちの歩く野原の道から少しはなれたところに、ロンドンまで続く大きな広い道路もあり、自動車が駆け抜けていきます。小さな生き物たちには注意が必要です。物語中に「あのけたたましいスピードはやりきれません。」と書かれてあり、作者のアトリーさん、自動車はあんまりお好きでなかった様子。自然や小さな生き物たちを愛おしむ気持ちも込められていました。
作者のアトリーさんは、田舎の自然を深く愛し故郷の思い出を作品の中にたくさん描いているそうです。小説では、1939年に書かれた「時の旅人/岩波書店」16世紀と20世紀を行き来するタイムトラベルもの児童文学がたいへん有名。絵本ですと、グレイ・ラビット、こぶたのサム、チム・ラビットなど動物たちが主人公の絵本がたくさんあります。

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第169回 奇妙すぎて癖になるスズキコージ

「イモヅル式物語」 ブッキング 2005年12月発行 76ページ
スズキコージ (コージズキンとも名乗っておられるそうです)/作・絵

以前にもスズキコージ氏の絵本をご紹介いたしましたが、本棚を眺めていると、目があってしまいました(と感じました)。1995~1996年発行の「月刊おおきなポケット(ただいま休刊)」に1年間掲載されていたものを、2005年に単行本化されたものです。
独特の明るく派手なそれでいて暗い色使い、歪んだ造形の不思議で不気味な登場人物たち、シュールなお話・・・どれをとっても人にお勧めするのに実は躊躇するのですが、そこがいいんだよねえ! 大人向けという言葉はあまり使いたくないのですが、年齢高めのかたの方が楽しめるのかも。なにせ1995年に描かれたお話なのでちょっと言葉が古いところもあるのです。(例・電気ガマ)しかし、「おおきなポケット」は小学1・2年生むけの月刊誌ですから、当時、楽しんで読んだ小さなひとたちもいたはずです(よね?)。このゴーインなお話展開に固まった心がほぐれてくる、はずです(だといいな)。

すごくすごくすごく短いお話12話が収録されております。奇妙すぎて説明が難しいので、タイトルをご紹介。タイトルで内容を想像できないんですけどもね。
第1話 ガマ夫くんの早朝マラソン(電気ガマ)
第2話 ほえろうくんのハエたたき(イヌ)
第3話 オートバイでデート(ブタとオオカミ)
第4話 ミタコさんの日ようび(タコ)
第5話 水中画家のバッカスくん(カッパ)
第6話 ボートでデート(ウシとカビン)
第7話 ハリコさんのフッションショー(ハリネズミ)
第8話 ヘビの古着屋(ヘビ)
第9話 映画でデート(ゾウとコウモリ)
第10話 バリカンくんの仙人修行(ニンゲン)
第11話 カルタくんのひっこし(カエル)
第12話 森のおばけ、ゴッゴレゾッゾーとメラフンニーセン(おばけ)
*リスト中↑(カッコ内)は、登場人物の動物名

読み終わった瞬間、物足りない・この続きが読みたい、と激しく感じます。絵とお話展開がパワフルすぎるためではないかと思います。
「●●でデート」のお話は、たいていはデート相手を怒らせてしまいフラレちゃうという失敗談。作者の経験談なのではないか(うしろのソデにバイクに乗るスズキコージ氏の絵あるため)と想像しました。うふふ。
特にブタのはだこさんとオオカミのめりはりくんのおはなしなどは、めりはりくんのせいばかりでもない。ちょっと可哀想よねえ・・それにブタとオオカミの恋人たちがうまくいくわけないよな・・というのが読み始めた時点で頭をよぎるのです・・・・
第10話のバリカンくんの仙人修行のお話が好きでたまりません。長い間、山にこもって修行をしていたので、家に帰ったらおばあちゃんに「あんただれ?」と言われてしまうのです。髪が伸びていて顔が隠れていますよ、そりゃわかりません。爪も伸び過ぎ状態なのがリアル。バリカンくんが山に帰って言われる言葉がまたたまらない。
第12話の森のおばけのお話も良いですよ。濁点が多くてすごく強そうで怖そうなおばけのゴッゴレゾッゾーですが、あるものに閉じ込められてしまいます。ああ、わかる。のぞきこみたくなるのわかる。
不思議な気持ちになれること間違いなしなこの奇妙なお話に惹かれましたらどうぞ手にとってみてください。ウフフフ・・・。

以前にご紹介したスズキコージ氏の絵本「ガッタンゴットン」もおすすめいたします。「ただただ、列車が行くのを見守る絵本」なのですが、色使いがとてもとても美しい。おっ?!とおもうラストもいい。

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第168回 ウソを許せる?許せない?

「エイドリアンはぜったいウソをついている」 岩波書店 2021年1月発行 36ページ
マーシー・キャンベル/文 コリーナ・ルーケン/絵 服部雄一郎/訳
原著「ADRIAN SIMCOX DOES NOT HAVE A HORSE」 Marcy Campbell, Corinna Luyken 2018年

どんなウソをついてるんだろう、とついつい手に取ってしまう目をひくタイトルですよね。。
ウソが許せない女の子のおはなしです。
同じクラスのエイドリアンは、「うちには馬がいるんだよ」という。
エイドリアンは、ぼんやりしていて、整理整頓もへた、靴には穴があいてるし、おじいちゃんと二人暮らし、おうちも庭もすごく小さいから、馬なんか飼えっこないのに。
「それウソだよ!」とつい言ったら、すごく悲しい目をしたエイドリアン。傷つけてしまったことがわかりました。
お母さんがエイドリアンのおうちへ連れて行ってくれました。やっぱり、馬はいそうにない小さなおうち。ウソがばれた、とそんな顔をしているエイドリアンをみてるうち、彼の心に寄り添うことができます。何か悲しい事情があって、想像上の素敵な馬が彼の心の拠り所になっていることを感じます。
「もしかしたら エイドリアンは 学校にいるだれよりも すごいそうぞうりょくの もちぬしなのかも」「エイドリアンの心には きっと 世界中のだれよりも きれいな馬がいるのかも」

「悲しい嘘」ではなく「想像力が豊か」という表現が新鮮に感じました。
ちょっと大人になったらば、ウソを言うには何か理由があるのかも?と相手の気持ちを察することができたりもしますが、幼い頃ですと少し難しいかもしれません。ウソが許せないその気持ちもわからんでないですよね。ウソに怒りが募るのは、羨ましいからかなあ。生死にかかわるうそでなければ、あっはっはと笑って聞けるようになりたいものですね。ウソが許せないのとウソをついちゃう気持ちにも、どちらにも共感して、涙こぼれそうになりました。
蛇足ですが「エイドリアン」というと、某ボクシング映画のヒロインを思い出し、表紙の右にいる女の子のことかと思っちゃいました。