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第168回 ウソを許せる?許せない?

「エイドリアンはぜったいウソをついている」 岩波書店 2021年1月発行 36ページ
マーシー・キャンベル/文 コリーナ・ルーケン/絵 服部雄一郎/訳
原著「ADRIAN SIMCOX DOES NOT HAVE A HORSE」 Marcy Campbell, Corinna Luyken 2018年

どんなウソをついてるんだろう、とついつい手に取ってしまう目をひくタイトルですよね。。
ウソが許せない女の子のおはなしです。
同じクラスのエイドリアンは、「うちには馬がいるんだよ」という。
エイドリアンは、ぼんやりしていて、整理整頓もへた、靴には穴があいてるし、おじいちゃんと二人暮らし、おうちも庭もすごく小さいから、馬なんか飼えっこないのに。
「それウソだよ!」とつい言ったら、すごく悲しい目をしたエイドリアン。傷つけてしまったことがわかりました。
お母さんがエイドリアンのおうちへ連れて行ってくれました。やっぱり、馬はいそうにない小さなおうち。ウソがばれた、とそんな顔をしているエイドリアンをみてるうち、彼の心に寄り添うことができます。何か悲しい事情があって、想像上の素敵な馬が彼の心の拠り所になっていることを感じます。
「もしかしたら エイドリアンは 学校にいるだれよりも すごいそうぞうりょくの もちぬしなのかも」「エイドリアンの心には きっと 世界中のだれよりも きれいな馬がいるのかも」

「悲しい嘘」ではなく「想像力が豊か」という表現が新鮮に感じました。
ちょっと大人になったらば、ウソを言うには何か理由があるのかも?と相手の気持ちを察することができたりもしますが、幼い頃ですと少し難しいかもしれません。ウソが許せないその気持ちもわからんでないですよね。ウソに怒りが募るのは、羨ましいからかなあ。生死にかかわるうそでなければ、あっはっはと笑って聞けるようになりたいものですね。ウソが許せないのとウソをついちゃう気持ちにも、どちらにも共感して、涙こぼれそうになりました。
蛇足ですが「エイドリアン」というと、某ボクシング映画のヒロインを思い出し、表紙の右にいる女の子のことかと思っちゃいました。

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第167回 本が読みたい!6この点

6この点のでこぼこの組み合わせで文字や数字を表現できる点字。点字の発明のおはなしです。

「6この点 点字を発明したルイ・ブライユのおはなし」 岩崎書店 2017年8月発行 34ページ
ジェン・ブライアント/文 ボリス・クリコフ/絵 日当陽子/訳
原著「SIX DOTS A STORY OF YOUNG LOUIS BRAILLE」 Jen Bryant, Boris Kulicov 2016年

点字を発明したのは10代の少年でした。1809年、フランスのクヴレ村に生まれたルイ・ブライユです。
ルイは痛ましい事故のために5才で失明しました。学校で大変優秀な成績を修めたので、パリの王立盲学校へ入学することができました。そこで点字のもととなる「暗やみの字」という戦場で使われる暗号に出会います。
王立盲学校は、目の見えない人のための本があるのです。もとは刑務所だったところで、非衛生的で良い環境とはとても言えませんでした。たった10才で、優しい家族たちのいる故郷から遠く離れたところへやってきたルイ少年。本が読みたい、その一心だったのです。
彼の熱意にはかなわないですが、わたしも本が好きです。本を読み、世界の一部を知る楽しさは何にも代えがたい。ルイ少年がたった一人で作った点字は、こんにちも目の見えない人たちが使っています。
ちょくちょくフランス語で励ましやら快哉!の文句がはいるのがちょっと面白い。臨場感たっぷりです。

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第166回 旅立つあなたに

「ヤマネコ毛布」 復刊ドットコム 2015年2月発行(もとは2007年パロル舎で発行) 40ページ
山福朱実/作・画

旅に出ようとおもう、というヤマネコが突然ハリネズミに告げます。引き止めることもできなさそうな決意みなぎる表情のヤマネコ。
次のページでは、手を上げ立ち去るヤマネコ、ハリネズミがぽつりと立ちつくす。言葉はなく絵のみ。ハリネズミの驚きがくっきり伝わってきます。
なぜ急に?どういうこと?と置いてきぼり感もありますが、まあじっくり見てまいりましょう。
ハリネズミは、森に住む動物たち(サル、クマ、トラ、カワウソ、オオカミ、トリたち、ウサギ、リス)に、針と布(おそらくハリネズミの針も一緒に)を配って言います。
「ヤマネコが森をでていく。おもいでを ししゅうして プレゼントしよう。」
それぞれが語る思い出を心を込めて刺繍します。サルは、ヤマネコをつかんで木から木へびゅんびゅんわたった楽しい思い出。クマは、冬眠中にヤマネコがクマをコタツがわりにしていたこと。トラは、二匹で思い切り爪とぎしたこと。ハリネズミは、ハリが邪魔で食べづらそうだと言われた月のきれいな夜を。トリたちは、フンの雨をヤマネコにおとしたこと。リスは、追いかけられた恨みがあるので刺繍を拒否。
いい思い出ばかりでなく、良くないのもあるのがいいですねえ。面白いです。
ヤマネコ自身はあまりしゃべらないのですが、思い出によってどんなやつだったのかがわかります。出来上がった布地を合わせて毛布にし、旅立ちの日に贈りました。リスも意外な贈り物。旅の道中、ヤマネコが凍えることはきっとないでしょう。
別れがテーマなのですが、まったく悲しくなりません。唐突の旅の理由というのもあかされず、不思議な読後感です。わりと奔放な感じがするヤマネコなので、まあヤマネコらしい。ヤマネコは一体どこへ行ったのか、考えるのもまた楽しい。

山福朱実さんの版画の挿絵が楽しいです。食欲で眼がギラリ光るヤマネコが怖くていい。思い出のページはデザイン性ばっちり。
ほかの児童作品に「ぐるうんぐるん (わくわくたべものおはなしえほん)」「地球と宇宙のおはなし/チョン・チャンフン・文」「きたかぜとたいよう(イソップえほん)/蜂飼耳・文」があります。

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第164回 お人形のはなし

幼い頃、みなさん少なからずお人形をもっていたんではないでしょうか。テディベアなど動物のぬいぐるみ・リカちゃんバービー・シルバニア・市松人形・・うん、ガンダムのプラモやキン消しも含めちゃいましょう!・・などなど。
コールテンくんというくまのお人形のお話です。ズボンのボタンが一つとれてしまっていて、ちょっと不良品な状態です。欲しいと言う子どもはあらわれるでしょうか。。。

「くまのコールテンくん (フリーマンの絵本)」 偕成社 1975年月発行 30ページ
ドン・フリーマン/作 まつおかきょうこ/訳
原著「COEDUROY」 DON FREEMAN 1968年

デパートのおもちゃ売り場にお人形さんたちがならんでいます。みんな早く誰かがおうちへつれてかえってくれないかなあとおもっていました。くまのコールテンくんもそうでした。デパートの外の世界のことをいろいろと聞いていたのです。共に暮す「ともだち」のこと、「山」のこと、王様の住む豪華な「御殿」、人の住む「おうち」のこと・・。
女の子がコールテンくんを気に入ってくれたのですが、お母さんはもうたくさん買い物をしてしまっているし、ズボンのボタンが一つとれているわ、とゴー・サインがでませんでした。
あともう少しで連れて帰ってもえらえそうだったのに。なくしたボタンをさがすため、そして外の世界への憧れがコールテンくんに行動を起こさせます。おもちゃ売り場の棚からおりボタン探しの冒険へ出発。

エスカレーターのことを山だとおもったり、家具売り場を王様の御殿と勘違いするコールテンくんが面白いのですが、外の世界を知らないのが少しかわいそうですね。
本来動くことの出来ない人形やおもちゃたちは、そばにいる子どもたちから、世界のことを知ることができるのです。(コールテンくんは動き回れるようですが・・)
家具売り場のベッドカバーの下に隠れたコールテンくんですが(耳がちょこっとでていたので見つかってしまうのがかわいい。)、デパート内を警備するおじさんに捕まって、おもちゃ売り場へ戻されてしまいました。

次の朝、コールテンくんに素敵なことがおこります。前の日コールテンくんを気に入ってくれた女の子が迎えに来てくれたのです。王様の御殿のようにたくさん家具のある大きな部屋ではないですが、素敵なおうちに連れて帰ってくれました。(なんとコールテンくんのベッドがあります!)そして、ズボンのボタンをつけてくれます。「あたし、あなたのこと このままでも すきだけど、でも、ひもが ずりおてくるのは、きもちわるいでしょ。」
ついにコールテンくんは、ともだちをみつけたんです。

ぬいぐるみを私もいくつか持っていて大事にしていましたが、「ともだち」だったかな・・・。コレクションのうちの一つ、というのが強かったような覚えがあります。お人形を大事にしない残念なわたしでした。ですので、この二人のような関係、驚きとともにうらやましく感じました。素敵な物語です。

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第163回 詩とはなんぞや

「詩ってなあに?」 BL出版 2017年6月発行 32ページ
ミーシャ・アーチャー/作 石津ちひろ/訳
原著「Daniel Find a Poem」 Micha Archer 2016年

詩ってなあに?という絵本を今回ご紹介いたします。
なんという難しい質問なのでしょう。わたしは正しく答える自信がありません。詩や俳句を読んでも、想像力が働かないのでしょうか、いまいちぴんとこないことが多いのです。ですので、小さな人にこんな質問をされたら、猛ダッシュで逃げだしたくなるでしょう。ゆえにこの本にとびついてみました。

ダニエルがいつも行く大好きな公園。とっても広い公園です。大きな木、池、広い原っぱ、すべり台や散歩道があります。入口の柱にポスターが貼ってありました。「詩の発表会」があるんですって。
「詩ってなんだろう?」ダニエルはくびをかしげた。
でましたよ!この質問が!どうしましょうか。
お助け人登場。蜘蛛の巣から声が聞こえました。
クモさん曰く「詩っていうのはね、あさつゆの きらめき のことなの」

公園で会う生き物たちにたずねていくダニエル。
ハイイロリスは、「そうだなあ・・おちばの かさこそ なる おと が詩だとおもうよ」
カエルは、「ぴょんっと とびこみたくなる ひんやりとした みず のことだわ!」
カメさんは、「たぶん、おひさまで あたためられた すな のことじゃないかしら?」
コオロギは、はねをふるわせながら、うっとりするような おんがくをかなでてくれた。「ゆうぐれの かぜの なかに とけていく メロディー、それが詩というものなんだ」

みなさん、わたしのように逃げたりはしません。きちんと答えてくれています。
すてきなことばや音楽を教えてくれます。なるほど、詩とはこういうもの。かっちりとした答えのあるものではないのですね。最後にダニエルも自分の「詩」をみつけることができたようです。

詩が身近になったようにおもいました。詩を親しむきっかけになるすてきな絵本とおもいます。よろしければお手にとってみてください。
詩ってなあに?とたずねられたら・・・逃げ出さず、この絵本を渡すことにします・・・・
挿絵も素敵なのです。ダニエルは5才くらいでしょうか。4等身ぐらいの身長でこどもらしい体型、ふわふわ・くりくりした黒い髪の毛がたいへん可愛らしい。ダニエルはおしゃべりする時、しゃがんだり寝転んだりと目線が低いので、生き物たちとのふれあいの近さで彼らを愛している感じも伝わってきます。表紙にもなっていますがシマリスがとにかくカワイイ!