に投稿

第184回 森でトラと

優しそうなトラにまたがる少年の絵の表紙にひかれ手に取ってみました。ネコ科の生き物がわたしは好きなのでついつい。

「トラといっしょに」 徳間書店 2020年8月発行 28ページ
ダイアン・ホフマイアー/文 ジェシー・ホジスン/絵 さくまゆみこ/訳
原著「TIGER WALK」 Dianne Hofmeyr, Jesse Hodgson 2018年

美術館でトラの絵に引き込まれたトム。
木々の根本に、伏せたトラが一匹。牙をむきだし、うなり声をあげています。
トラは、いつ何時飛びかかってくるやらわかりません。
黒々とした闇に浮かぶ木々や南国の赤い花が、強い風に揺れ動き、不安をかきたてます。
「不意打ち」という不穏なタイトルの絵でした。

家に帰ったトムは、色鉛筆でトラを描きます。身構えてこちらをにらんでいます。
このトラも強くて、獰猛そうです。けれど、美しい。

その夜、トラが絵をぬけだし、トムの前にあらわれました。ヒゲがピクピク、しっぽをヒュッヒュッとふり、足音させずに一歩一歩近づく、静かな足取り。エモノを追い詰める動作ですよね。こわい!やられる!
意外なことに、話しかけてくるトラ。
「さんぽにいこう」
のどをゴロゴロいわせています。
ネコのゴロゴロなら聞いたことあるが、トラのはないですよ。おいおい、それはかなり羨ましいぞ!
「夜だし、暗い」
速攻でトムは断ります。トムくんトムくん、慎重すぎやしないかい?
丸くて大きな月に照らされたトラは、引き下がりません。
「トラにこわいものなんてない」
はい!ついてまいります!てわたしならすーぐに言うけどなあ!
しょうがなく、て感じでトムはトラの背中に乗り、冒険に出発!

トラとトムの真夜中の冒険では、闇に生きる動物たちがたくさん登場します。キツネ、クマ、ライオンが、闇にまぎれ隠れていて、やっぱり怖気づくトムくん。
トラは、みんなと楽しく遊べばいいさ、ととがった歯をみせて笑いました。ヨルガオの咲く森でみんなとかくれんぼ。
ぬめぬねウナギのいる川をもぐったり、高くあがるぶらんこに乗ってぐるぐるまわったり、雪嵐がきそうな冷たい空を飛んだり、ホワイトタイガーのひそむほらあなでおどったり・・怖がりながらも、トムはたくさんの冒険をくぐり抜けます。

トムが見た絵は、フランスの画家アンリ・ルソーの描いた「不意打ち」という題名の絵でした。不意打ちされたのはトラか、対峙したニンゲンなのか、どちらなんでしょうか。トラウマになりそうなタイトルじゃあありませんか。
怖がりなのに、トムはこの絵に魅惑されました。トラのあついいきのにおい、とがった歯を見せて笑ったり、鋭い爪のある太い前足をふってみせたり、そんな獰猛なトラの動きに恐怖しつつも、強さ・勇気の象徴であるトラにあこがれたのでしょう。それで家に帰ってトラを描いた。怖がり屋ではあるけれど、その時すでに恐怖に打ち勝っていたのじゃないでしょうか。
そして、真っ暗なジャングルを探検しながら、一歩一歩、少しずつ慎重に、こわいことを克服していく、子どもの成長の軌跡なのでしょうね。

トラがとても美しく描かれています。特に第4場面、月に照らされたトムとトラが見つめ合うシーン。まーあ、トラの美しいこと。長い長いひげ、緑色の美しい目。金色の毛に浮かぶ黒のながれるような縞。ああ、ふさふさの厚い耳をつかんでひっぱりたい。
最後のページ、眠りにつくトムとトラの満足そうな顔が素敵です。
挿絵のジェシー・ホジスンさんの本があるのですが未邦訳。ううん、残念。ぜひ読んでみたいのです。

に投稿

第183回 青い生き物たちをご紹介

「あおのじかん」 岩波書店 2016年6月発行 42ページ31cm
イザベル・シムレール/文・絵 石津ちひろ/訳
原著「HEURE BLEUE」 Isabelle Simler 2015年

青の時間とは、なんでしょうか。表紙をめくると、「いろいろなあお」が紹介されています。いろんな青に作者が自己流で名付けたもの。「こなゆきいろ」は、うすいうすい青~灰色なのですが、朝から寒くて吹雪いてるときってこんな感じかも。「うんどうかいのそらいろ」わたしが出かける時・大事な用がある時は雨になりやすいというジンクスがあるのですが、運動会のときにこんな空の色だとうれしいよなあ。「そらとぶえんばんのいろ」???とても濃い青、群青といった感じですが、出会えそうな空の色のことかなあ?「はればれとしたこころのいろ」運動会の空色と似ていますがやや白っぽい感じ。なんかわかるように思います。心配なんかなくって気分が良いと顔も空を向きますもの。
ほかにも「あかちゃんのぼうしいろ」「みずたまりいろ」「ゆめのいろ」「みずぎのいろ」「うんどうぐつのいろ」「にじをまぜたいろ」「はかまのいろ」「ふかいうみのいろ」~~うすい青から濃い青までいろんな青がありますよ。どんな青か、想像してみてください。
いろんな青を鑑賞したのち、本編がはじまります。

青の時間とは、日が沈み夜がやってくるまでのひとときのこと。ごく短い時間ですね。
この時間に活動をはじめる、活発になる生き物たちが紹介されます。気に入ったものを抜粋。
最初は「アオカケス」。羽の鮮やかな青さが美しい、頭にかんむりのような模様がある鳥です。青の時間の始まりを告げるのは、彼らです。
同じ頃、ほんのり青い「ホッキョクギツネ」、キリキリと冷えた極寒の世界を歩む。-70℃の世界でもちょっと寒いと感じるくらいだそうです。ちなみに夏毛に換毛すると別人。
おつぎは、「コバルトヤドクガエル」です。アオカケスと同じようにこちらもとても美しい。でも、カエルといえば緑のイメージが私の中では強いせいか、ちょっと微妙な心持ち。正直可愛いと思えない。きれいなんですが、毒持ちだし。
かぐわしい かおりを ふわっと はなつ「やぐるまぎく、ほたるぶくろ、わすれなぐさ、すみれ」お花もいろんな色がありますが、青系統のお花です。花がふわり香るのはいいもんです。
空はもう濃い藍色。すぐに暗闇となるであろう野原をブルーグレイの猫がおでかけです。
真っ暗な海の底では、「アオミノウミウシ」がヒョウモンダコにまた明日会おうね、とご挨拶。「青蓑海牛」と書きます。このウミウシ、不思議な造形をしています。胴体に手のひらを開いたような形のヒレ?4つと尾羽根のようなものが優雅に広がっています。羽が4枚ある鳥のよう。青い竜なんても呼ばれているそうですよ。初めてこんな生き物がいると知りました。こちらも毒あり生物!こんなにきれいなのに!
世界の青い生き物たちのご紹介でした。

繊細な線がとても細かにみっしり描き込まれています。青の補色のオレンジなど明るい色とを組み合わせ、カラフルで美しい色合いの非常にきれいな挿絵です。
イザベル・シムレールさんの他の作品もよろしければお手にとってみてください。
「はくぶつかんのよる」「シルクロードのあかい空」「ねむりどり」「ゆめみるどうぶつたち」「しぜんのおくりもの」「たびするてんとうむし」「イラスト図鑑 リーブル「樹木」(ナタリー・トルジュマン/文、ジュリアン・ノーウッド、イザベル・シムレール/挿絵 観察図鑑です)」

ナタリー・トルジュマン/文、ジュリアン・ノーウッド、イザベル・シムレール/挿絵 観察図鑑です。

に投稿

第182回 お化けたちが宴を楽しむ絵本

「お化けの真夏日(お化けシリーズ)」 BL出版 2001年8月発行 31ページ
川端誠/作

お化けが主人公の絵本です。お化けにおどろかされる子ども、ではなくお化けが主人公なのです。お化け屋敷に暮らすお化けたちの日常が楽しいです。そして美味しい料理を楽しむ宴の絵本です。
シリーズは今のところ6冊発行されています。「お化けの真夏日」「お化けの海水浴」「お化けの冬ごもり」「お化け屋敷へようこそ」「お化けのおもてなし」「おばけの猛暑日」

「お化けの真夏日」
おばけたちが過ごす暑い夏の一日。人間と変わりません。暑さをぼやいたり(大入道・青坊主)、クワガタ・カミキリ・トンボを捕まえ、かき氷を食べ、花火を買い(一つ目小僧)、スイカを買いに行って安くしてもらって喜んだり(ろくろ首)、スイカが冷えるのを待って昼寝したり(大入道)、夏休みの勉強をしたり、スイカを食べて涼んだり、庭に打ち水をして、お風呂(五右衛門風呂!)を沸かしたり、風呂上がりにビール(オバケ地ビール!しかもピルスナー、スタウト、エールと3種揃えてます!)を嗜む。
おや、大雪山(北海道の山です)の雪女から、クールお化け便が届きましたよ。暑中見舞いとして、大きな雪だるまを送ってくれたんです。こりゃあ涼しそうだ。
そして、みんなでながしそうめんをいただきます。ろくろ首がおそーめんを茹でると伸びちゃうので砂かけ婆が茹でる、という注釈が面白い。一つ目小僧たちが花火を楽しみます。
くーっ、仲間に混ざりたぁい。オバケ地ビール飲みたぁい。

「お化けの海水浴」
お化け屋敷の面々が今度は海へ。お化けオンリーのプライベートビーチです。人間が迷い込んだら恐ろしい目に会うそうです・・・。
一つ目小僧たちは、浜辺で大はしゃぎ。お化けたちも海に入る前には、準備体操です。特にろくろ首は首をグルグル、手首ブラブラ、足首クネクネとしっかり体操しています。砂かけばばさんのシックな水着がかわいい。ひょろけはウェットスーツを着込んでますよ、本格的ねぇ。
おいさん連中の大入道や青坊主は、日差しをさけてからかさの下で昼寝です。砂かけばばさんは、浜べで砂を採集中。ばばさんが撒くための砂を持って帰るそうです。手伝うひょろけ、優しいね。
そもそも「ひょろけ」というお化け、初めて知ったかも。目がぎょろりとしてベロがぺろーんと長くでた、ちょっと不思議な顔立ち。軽く検索してみましたがでてこないですねえ。
おや、ろくろ首が沖へ向かってます。へー、ろくろ首って泳げるんだと思ったら、首をぐーんと伸ばして海の底を歩いているんだって。えっ、準備体操の必要、あった?
鬼ヶ島から赤鬼青鬼が魚を、姉妹の共潜(ともかつぎ)はあわびやさざえを、それはそれはたくさん持ってきてくれました。他にもぞくぞくおばけたちがやってきます。
じつは今日は浜で宴会が開かれるのです。妖怪たちの交流会、どんな話するんだろう?
小豆とぎと小豆洗いが(同じ妖怪かとおもってましたが微妙にちょっと違うらしい?)さっそく料理にとりかかります。たっくさんの種類の魚やエビやアワビのお刺身、浜なべ、浜焼き・・うわぁ~魚づくしだぁ!たまりませんねえ。
すぐすぐ飲み始めたい大入道は、赤鬼青鬼に酒をすすめます。あれ、鬼たちの顔が白っぽくなって具合が悪そう。その酒の名前が「大吟醸桃太郎」「純米鬼ごろし」。そりゃあダメでしょう。

「お化けのおもてなし」では、東北のお化け・座敷わらしと袖ひき小僧が遊びにくるので、みんな張り切っています。酒好きの大入道が意外に活躍して、うどんを作ります。一つ目小僧たちの工夫をこらした竹で流しうどんです。鬼ヶ島産のお塩、北海道の小麦などこだわりの食材が、なんかもう否応なしに食欲をそそります、食べたくってたまらない。そして、小豆とぎと小豆洗いの夏野菜や魚貝の天ぷら!ああ~おいしそうすぎるぅ!

おいしいものを持ち寄って宴会したりと、怖い存在であるお化けがこんなにも楽しそうなのが、いいんですよねえ。雪だるまの暑中見舞い、おもてなしのための食材を送ってくれたり、お化けだって縁を大事にしている、そんな感じが素敵です。
しかし、前見返しを開いて見ますとドキリとします。そこだけちょっと怖い雰囲気があるのです。さすがお化け絵本。

に投稿

第181回 あおいそらしろいくも

「くもとそらのえほん(PHPにこにこえほん)」 PHP研究所 2019年4月発行 32ページ
五十嵐美和子/作・絵 武田康男/監修

朝、洗濯を干すか干さまいか、空を見て決断しますが、まあたいてい当たりません。今日は一日晴れるであろう!と思っても、お昼を過ぎたら薄曇りになっちゃったりします。洗濯曜日のわたしにとってはちょいとにっくきもの、そんな「雲」が主人公の絵本です。
大きさや広がる形で、呼び名がかわってきます。不思議ねえ。
にゅうどうぐも、わたぐも、ひこうきぐも、うろこぐも、おぼろぐも、あまぐも 虹! ひつじぐも、きりぐも、レンズぐも、すじぐも。

まずは、にゅうどうぐも。高くぐわっと広がって大雨を降らせたり雷ゴロゴロ言わせます。
わたぐも。わたのようにふわっとしたやつです。
あまぐもは、雨をしとしと降らせます。「たんぼや かえるは あめを あびて うれしそう。」雨はやだな、と思ってしまいますが、農家の方や自然の生き物たちにとって有り難いものということも忘れちゃなりませんやね。
雨が止み、雲の切れ間から光が差し込みます。太陽を背中にして空を見上げましょう。虹が見えるかも。(虹って見えると無性にうれしいですよね)街をはなれて山間部へ。山では、山でよく生まれる雲があります。きりぐも。山の上をつよいかぜがびゅーっとふくと、レンズぐもができるんです。
ページをめくると、流れるように場所が移動し、それにつれて雲の形も変わっていくのが楽しいです。
今度のお休み、本は読まずに、空を眺めようかしら?
巻末では、もう少し詳しい解説と雲はどうやってできるのか?の説明があります。
監修の武田康男さんの肩書は「空の探検家」なのです。気象予報士や空の写真家をされています。南極観測越冬隊員なのだそうです。スゴイなあ。

そして、この絵本の雲以外の部分、空の下にも目をちょいっと向けていただければとおもいます。
主人公の雲の邪魔をしないように、でも細やかに描きこまれています。正直言いますと最初は、地面に目がいってしまいました。動物園や遊園地、建物が低くて華やかな遊具はありませんが、美しいです。街の風景は、スカイツリーと東京タワーが頭をのぞかせます。田んぼや川が流れるこの町は、どこかにきっとあると思わせる風景。

に投稿

第180回 遠野物語を絵本で

「えほん遠野物語 全10巻」 汐文社 2016年から刊行 32ページ
柳田国男/原作 京極夏彦/文

わたしは怪談が好きなので、怪談の絵本もよく手に取ります。怪談絵本は人気がありますね。
シリーズで怪談絵本を発行している出版社に、新日本出版社の「ゾッとする怪談えほんシリーズ」、ポプラ社の「おばけ話絵本シリーズ」、汐文社の「えほん遠野物語」があります。(記載漏れシリーズありましたらごめんなさい。)
特に岩崎書店の「怪談えほん」は特に力がはいっていますねぇ。大人向けミステリ・ホラーの作家の方々がたくさんかいておられます。宮部みゆき、皆川博子、京極夏彦、恒川光太郎、加門七海、恩田陸、岩井志麻子、小野不由美、有栖川有栖、夢枕獏、あさのあつこ、佐野史郎、藤野可織、といった豪華キャストなのです。挿絵画家も吉田尚令、宇野亜喜良、町田尚子、軽部武宏、樋口佳絵、加藤休ミ・・と盛り沢山です。

今回の投稿では「えほん遠野物語」をチョイスいたしました。遠野物語です。
岩手県の遠野地方で語りつがれる不思議なお話、妖怪のこと、家で祀られる神様のこと、変わった風習のこと等を民俗学者・柳田国男があつめまとめた「遠野物語」。この有名なこの奇譚集を、小説家で妖怪研究家の京極夏彦が絵本に仕立て上げました。
収録怪異は、こちら。
「かっぱ」「まよいが」「やまびと」「ざしきわらし」「おいぬさま」「おしらさま」「ごんげさま」「でんでらの」「おまく」「きつね」「しびと」「ばけもの」
遠野物語、読んだことがありますが、遠野の人たちから聞いた怪異を記録したものなので、とてもとてもシンプル。
それはそうですよね、学問としたら話を足したり引いたりしてはいけませんもの、当然です。ですが、失礼な言い方ですけど、なんというか・・さばさばしてるというか・・情景が浮かばないというか・・盛り上がりにかけるというか・・。わたしゃ怪談が聞きたいの!という方にはオリジナルのほうはちょっと向かないみたい?(※個人的な感想です)

もし、おじいちゃんやおばあちゃんが怪談を語ってくれるとしたらば、口調や声音を変化させてお話を盛り上げてくれるんじゃないかなと思うのです。
そしてこの〈えほん遠野物語〉、挿絵でもって不安や恐怖を盛り上げてくれるんです。
北原明日香、近藤薫美子、中川学、町田尚子、中野真典、伊野孝行、軽部武宏、はたこうしろう、羽尻利門、樋口佳絵、阿部海太、飯野和好が挿絵をかいています。画風多彩で面白いです。
「ごんげさま」がわたしは好みです。遠野地方の家にはごんげさまを祀る家があり、獅子舞の頭(かしら)に似ているのですが、ちょっと違うのだそうです。神楽を舞うときに使われます。頭痛を抑えたり火事を消してくれたり、不思議な力を持つ神様です。このごんげさま、ほかのお家のごんげさまに会うと、ケンカが始まるのだそうです。負けたごんげさまは、耳をかじりとられるそうですよ。神様が縄張り争いをするなんて!興味深いです。なんだか身近に感じかわいらしい。うちとこのごんげさまが一番!ってそれぞれのおうちで言ってるんじゃないでしょうか。
遠野の人たちは怪異をただただ恐れるのではなく、日常のこととして受け入れている、そんな風に感じます。遠野というところはあちらとこちらの境界線が薄いのかもしれない・・・なんてことを信じたくなります。赤いカッパやごんげさまのバトルを見てみたいものです。きっと楽しいのじゃないでしょうか。