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第141回 かがくの面白さを味わう絵本

なちぐろ堂店主のモットーは「科学に心を開け」なのですが、わたしは科学はちょいと苦手です。ではありますが店主の勧めでわたしも時々SF小説を読むのですが、物理学がでてくるとさっぱりちんぷんかんぷん。SF小説では科学の発達した未来を描いているけれど、人間の感情がなくなることはありませんので、そういうところを楽しんで読んでいるものの、やはり少しは理解したいもの。
ちょっと勉強し直してみよう・・と軽い気持ちで手にとったこの絵本。いやはや、わかりやすく書かれているのです。SF小説をカンペキに理解する、には少し遠くはありますが、とっかかりになります。もっとくわしく知りたい・勉強したいとなりそうです。

「はじめまして量子力学 ふしぎがいっぱいミクロの世界」 化学同人 2020年11月発行 48ページ
ジェダード・カイド=サラーフ・フェロン、エドゥアール・アルタリーバ/著 鈴木真奈美/訳 橋本幸士/監訳者
原著「MY FIRST BOOK OF QUANTUM PHYSICS」 Eduard Altarriba, Sheddad Kaid-Salah Ferron 2017年

「長いあいだ、人びとは、見えるものやさわれるものから世界を理解しようとした。星のことや、世界がどうやってできたかなど、説明できないときには、神話や宗教を使ったよ。」
地球はたいらだと長い間、人びとは考えてきた。地球は丸いということを知らなかった時代があった、というのが最初です。
「感覚だけにたよっていては、世界を理解できないんじゃないか?観察や実験や数学も必要なんじゃないか?」と考えはじめたのは紀元前2世紀のギリシャの哲学者でした。中世の終わりになるとようやく、地球は本当は丸いという説が広がりはじめます。
思いきって全く違う発想をすること・・科学によって世界を理解しはじめたのです。

世界には、様々な物質が存在しています。石、水、本、パソコン、猫や人間といった生き物、光、音、電気、あらゆるものは、ものすごく小さな小さな「粒子」でできています。目では確認できないこの小さな小さなモノ、これを理解するというのが量子力学。小さすぎてこれが何なのか、働きや構造を確認するのも大変で、”光”は特に不思議な動きをするのだそうです。
これまでは「古典物理学」で世界を理解できていたのだけれど、この粒子を理解するために「現代物理学」の考え方が発明されました。

量子力学を理解しやすいよう、年代別ではなく、量子の発見・量子は何で出来ているか・量子の動きかた、という流れで説明されています。反物質、量子もつれ、クォーク、ヒッグス粒子のことも少し。
周期表をものすごく久しぶりに見ましたが懐かしく感じました。覚えるのたいへんだったことを思い出します。うーん、きれいに並んで美しいです。光の動きの不思議さがわかる「ダブルスリットの実験」、そして有名な思考実験「シュレーディンガーの猫」のおはなしが登場したらば、なんだか興奮です。
たくさんの科学者・哲学者の方々の実験に次ぐ実験、考えに考え、あみだされた科学技術(電子レンジ、携帯電話、スマートフォン、IHヒーター、DVDやCDプレイヤー、LEDライトなど)を使わせてもらっている・・とおもうとしみじみ感慨深いです。

ちなみに・・なちぐろ堂店主に絵本を読んでもらった感想ですが、「ぼくはニュートン物理学(古典物理学)から勉強するべき、という保守手的な意見をのべておく」とのことです。    ふーん。
科学って難しそう!という高い壁なんかなんのその、心をまっさらにして、手にとっていただければとおもいます。科学の面白さを感じてください。科学に心を開け!なのです!
さらにかがくを味わう姉妹編「はじめまして相対性理論」もございますよ。

さらにちなみに・・
登場する科学者と発見したこと
万有引力の法則・運動の3法則(アイザック・ニュートン)、エネルギー量子仮説(マックス・プランク)、光の波動説、電磁波の方程式(ジェイムズ・クラーク・マクスウェル)、光子・一般相対性理論(アルベルト・アインシュタイン)、原子の構造(アーネスト・ラザフォード)、周期表(ドミトリー・メンデレーエフ)、ダブルスリットの実験(トーマス・ヤング)、シュレーディンガーの猫(エルヴィン・シュレーディンガー)、不確定性理論(ヴェルナー・ハイゼンベルグ)、放射能の研究(マリー・キュリー)
登場順に記載



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第139回 たこ・友情・哀愁

「タコやん」 福音館書店 2019年6月発行 32ページ
富安陽子/文 南伸坊/絵

タコのタコやんのおはなしです。
ノタコラ ペタコラ とあらわれたタコ。そう、頭足類の八本足の蛸です。
「よっ!」と足八本のうちの1ぽんあしをあげ、ごあいさつ。
しょうちゃんのおうちに突然あらわれたタコやん。
「タコやんです。あそびましょ」
えっなぜタコが?水の中じゃないけどだいじょうぶ?タコがしゃべってますけど?
疑問が吹きでます。
しょうちゃんも不審に感じたか(タコと遊ぶのはいやだなあ)とおもって
「いま、ゲームをしてるから、あとで」と断ります。
ドアチェーンのスキマからヌルリンチョとおうちの中にはいってきてしまって、ゲームをすることになりました。タコのタコやんはゲームがうまかった。
しょうちゃん、「タコやん、すっげぇ!」とほめると
頭を足でかいて「それほどでも」と照れました。

タコやんは、タコなのにサッカーをしてもかくれんぼしても、ぜんぶ上手。その上、公園を独り占めしようとするいじわるなおじさんと犬をおいはらうほど勇気もあるし機転もきいている。かっこいい!タコだからと最初は敬遠したこどもたちでしたが、みんな仲良くなって楽しく遊んだのです。
もう夕暮れです。楽しい時間は終わり、おうちへ帰る時間。タコやんとハグをしておわかれです。人間とタコの友情、すてきでした。またあそべるといいな。きっとまたあそぼう。
夕日のオレンジ色に染まった空と夕焼けを写した海の黄色、そんな色合いの中を海へと帰るタコやん。最後のページには哀愁を感じます。なんてこってしょう。絵本で哀愁を感じるなんて、とちょっと不思議な気持ちになりました。南伸坊さんのいろいろ省略したかわいいシンプルな挿絵も効果があるとおもいます。素敵な絵本でした。

「ノタコラペタコラ」「ヌルリンチョ」「ペタンチョ」「ヘナヘナのパー」オノマトペが独特で面白い。小さい人も喜んでくれそうですね。
作者の富安陽子さんは他の著書に「やまんばのむすめ まゆのおはなし・シリーズ」「オニのサラリーマン・シリーズ」「シノダ!/シリーズ」「妖怪一家九十九さん・シリーズ」など、たくさんかいておられます。



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第137回 本が好きなドラゴンのおはなし

「フランクリンの空とぶ本やさん」 BL出版 2018年2月発行 32ページ
ジェン・キャンベル/文 ケイティ・ハーネット/絵 横山和江/訳
原著「FRANKLIN’S FLYING BOOKSHOP」 Jen Campbell Katie Harnett 2017年

本が大好きなドラゴンのお話です。
フランクリンは本が好きなドラゴン。読むだけでなく、誰かに読んであげるのも好き。おうちのいわあなには、たくさん本があります。いわあなの部屋には、ところせましと本が積まれ、ドアに本棚がつくりつけになっていたりと本好きなのが伝わる挿絵です。素敵なお部屋です!ともだちのネズミやコウモリたちに本を読みます。みんな聴き入っています・・。いいですねえ、わたしも参加させていただきたい。
時々遊びに行く近くの町の人達には、気の毒なことにおそれられています。フランクリンが挨拶をしても逃げられてしまいます。からだが大きいからでしょうか。突然あらわれたら、ちょっと怖いと感じるかもしれませんね。。
森で出会ったルナという女の子と仲良くなります。ルナは本が大好き。本好きのふたりは意気投合。今まで読んだ本のはなしでもりあがります。感想を言い合うのは読書の楽しみのひとつですよね。
町の人達に本をよんでもらえたらどんなにすてきだろうと二人は計画をたてます・・
なんと、フランクリンの背中にほんやをつくったのです!ソファや本棚を乗せ空を飛んで本を読み聞かせます。ドラゴンにのせてもうらのってすごく楽しそうですね。

ドラゴンは退治されるという役柄が多いものですがこの本では愛されキャラとなるので安心して読めるのがいいですね。ドラゴンは空想の存在なのに、本の中の空想にどっぷりはまっているというのが不思議で面白く感じました。
全体的に落ち着いた色合いの挿絵も素敵。緑の体に赤い羽の色合わせがきれいです。あちこちに描きこまれたネズミ、コウモリ、クモたちも愉快で楽しい。
このお話の続きが2冊でています。「フランクリンとルナ、月へいく」「フランクリンとルナ、本のなかへ」



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第136回 しんじてる。きっときみはだいじょうぶ。

とても静かで胸に迫る絵本です。

「このまちのどこかで(評論社の児童図書館・絵本の部屋)」 評論社 2021年1月発行 40ページ
シドニー・スミス/作 せなあいこ/訳
原著「SMALL IN THE CITY」 Sydney Smith 2019年

少年がバスで街へ。タクシーのクラクション、工事する大きな音、あちこちで鳴りひびくサイレン。大きな街は騒がしくて、どきどきする。
少年は「小さなもの」へ語りかけながら街を歩き回ります。
安全で暖かく過ごせそうな場所、おいしいものを食べられそうなところや親切な人がいるところ、反対に暗い道や犬がいて危険な庭など近づかないほうがいいところなど助けになりそうなことを教えてあげています。
無事を祈る少年の思いが誰への言葉かわからず、少し不安をあおります。ちょっと我慢してページをめくっていきます。
日暮れが近づき、雪が強く降りはじめとても寒そう。少年の焦燥感、孤独感が伝わってきます。けれど、きっと無事でいるという希望をもっています。「しんじてる。きみはきっとだいじょうぶ。」少年の言葉に胸がはりさけそう。愛するものへの気持ちがつたわってきます。
物語の終わり近く、少年が吹雪く街を歩き回る理由や願いがわかった時、じんわりと胸にせまります。
少年は、迷い猫をさがしていたんですね。
最後のページにはほっとします。そうでなくちゃあ。
挿絵もきれいです。最初のページ、少年がバスから見る光景が見開きで4コマ、映画のよう。素敵です。とても静かにせまりくる絵本なので対象年齢はやや高めと感じます。

作者のシドニー・スミスさんが挿絵をつけた絵本も素敵です。
「おはなをあげる(ジョナルノ・ローソン作)」「うみべのまちで(ジョアン・スウォーツ作)」「スムート かたやぶりなかげのおはなし(ミシェル・クエヴァス作)」
があります。



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第135回 眠い人起こすの禁止!

「ねえ、おきてる?」 光村教育図書 2011年9月発行 40ページ
ソフィー・ブラックオール(ブラッコール)/作 もとしたいづみ/訳
原著「ARE YOU WAKE?」 Sophie Blackall 2011年

ママ! ママったら!
朝の4時、エドワードの目が覚めてしまいました。また寝つけられたらよかったのですが、エドワードのまぶたはくっつく気配はないようです。隣で眠るお母さんを起こします。うわあ~。。。これは困った状態です。夜に目覚めてしまって退屈で、おかあさんとお話したいのです。

ねえ、おきてる?
 んー・・・・・・おきてない・・・・・。
なんで おきてないの?
 ねてるから。
なんで ねてるの?
 まだ よるだからよ。
なんで まだ よるなの?
 おひさまがでてないでしょ。
なんで おひさまが でてないの?
 おほしさまが でてるから。
なんで おほしさまが でてるの?
よるだから。
そっか!

エドワードは、おかあさんのまぶたを引っ張ってあけてみたり(この挿絵がすごく面白い!)、上に乗っかって重みをかけたり、「そっか!」と一応の納得をするにもかかわらず、哲学問答みたいな終わりのない質問を延々とくりかえします。苦行です。
わたしなら、寝なさい! って叱るでしょうねえ・・。おかあさんは、枕で防御しつつも、まったく怒る素振りなく、眠くてちょっと適当ですが、質問にきちんと答えてあげてます。素敵なかあさんですね。この辛抱強さ、見習いたい。
なんで?なんで?なんでなの?の質問のせいで、覚醒してきたおかあさんの目がだんだんしっかりしてくるところがまたおもしろいです。
一番すきな色はなあに?っていう話の途中で、エドワードが眠ってしまいます。興が乗ってきたこのタイミングで寝ちゃうの?この置いてきぼり感、寂しすぎるよ~~。
実際にされちゃうと、うっ とおもうけれど傍で見ている分には、お子さんとお母さんの会話がたまらなく楽しい絵本でした。

ソフィー・ブラッコールさんはほかにも
「おーい、こちら灯台」灯台は、夜に海をいく船の安全のために灯りをおくります。その灯台を守る役目の灯台守のおはなし。ラストのおーい、に胸にきます「とびきりおいしいデザート」「ベネベントの魔物たち」などの挿絵もたくさんかいておられます。細い線でリアルなちょっと怖い感じという特徴的な美しい挿絵が魅力的。