に投稿

第133回 小学6年の微妙な人間模様を描いた名作

小学6年女子のちょっと複雑な人間関係や、虫好き女子の孤独な気持ち、男子のちょっとエッチ発言、褒めたつもりが逆に相手を傷つけてしまうこと、体のこと、教室でよばれるニックネームのこと。いろんなことが起こる小学6年2組の一年間のおはなしです。

「ゆかいな床井くん」 講談社 2018年12月発行 185ページ
戸森しるこ/著者 早川世詩男/画

主人公は、三ヶ田 暦(みけた こよみ)、小学6年生の女の子。
床井 歴(とこい れき)、同じクラスの男の子。
主人公の暦は、クラス内の人間模様を観察するのが好きらしい。波風を立たせないように気遣いをしてちょっと考えすぎてしまう、そんな女の子です。「みけたこよみ」だから暦をミケと呼ぶ床井くん。ボケというか言い間違い?が多いが、素直で明るくて人の気持ちを汲み取るのがじょうずな少年。ゆかいな床井くんのテンポ良い会話が読んでいてとても楽しいです。

床井くんは、クラス内で起こる事件や対立が起きそうなことを言ってしまったクラスメイトの気持ちをうまくくみ取ります。なぜそんな発言をしたのかその人の気持ちになって、胸の内を察する優しい子です。
暦は、ちょっと考え込みすぎな女の子ですが、床井くんのおおらかで楽しい発言や考え方にやすらいでいます。床井くんの言葉を素直に受けとる暦もなかなか素敵とおもいます。

人によって捉え方や感じ方が違うことを気づかせてくれる床井くんはほんと優秀。小学6年生とはちょっと思えない気遣いや思いやりがすごい。けれどそんな床井くんも涙することがあるんです。「明日からどうやって生きていけばいいんだろう」と、給食の時間にぽろぽろと涙をながしはじめる床井くん。その理由に泣き笑いしてしまいました。給食を食べながら思いをはせる子どもたち、良いクラスですね。

「ミケが笑った。今日はきっといいことがあるな」そんなことをさらりと言う床井くん。それは惚れちゃいますよねえ~。
暦の床井くんを好きだという気持ちも、爽やかで胸キュンで良いですね。戸森しるこさん、ずっと追いかけたい作者さんです。みなさまもよろしければお手にとってみてください。

著者の戸森しるこさんは、他著書に
「ぼくたちのリアル」幼馴染でクラスの人気者の璃在(リアル)、リアルと比較され自信を持てない渡(ワタル)、そして美形男子の転校生サジ、それぞれの悩みをみんなで乗り越えていく。著者のデビュー作、こちらも面白かったです。
「十一月のマーブル」「理科準備室のヴィーナス」「レインボールームのエマ(おしごとのおはなし スクールカウンセラー)」「ぼくの、ミギ」 などがあります。



に投稿

第127回 ピリッとからい昔ばなし

ちょっと大人むきなダールの昔ばなしのパロディ作品をご紹介いたします。ピリッと皮肉の効いたこのお話、いやだと感じるかたもいるかもしませんがどうぞご容赦ください。

「へそまがり昔ばなし (ロアルド・ダール コレクション12)」 評論社 2006年6月発行 85ページ
ロアルド・ダール/著者 クェンティン・ブレイク/画家 灰島かり/翻訳者
原著「ROALD DAHL’s REVOLTING RHYMES」 Roald Dahl Quentin Blake 1982年

「シンデレラ」「ジャックと豆の木」「白雪姫」「三びきのクマ」「赤ずきんちゃん」「三びきのコブタ」
この有名な6話の昔話を、ロアルド・ダールがキュっと皮肉を込めえがきなおしました。
若かりし頃にこれを読んで、驚きました。これは受け入れられない! とおもった記憶があります。
昔ばなしの主人公は、たいていは「いい子」と決まっています、と訳者の灰島氏がまえがきで書いています。「いい子」であることを、世の中は大人は、確かに求めています。子どもはいい子のほうが、大人にとって楽ですからね。(そして子どもだってそれに応えたいとおもうものですよね。)いい子であれと説く昔ばなしに抵抗したのが、この物語。
ダールのこの皮肉なユーモアは、すこぉし覚悟をして、童話とおもわず読まないほうが楽しめるのでしょう。ほかの人が幸せと感じることと、自分にとっての幸せは、ちょっと違うときもあります。迷子になったり道をはずれたほうが楽しい時もありますし。

ダメ王子を見きるシンデレラ、豆の木ジャックはお風呂に入って、義母の魔法の鏡を盗む白雪姫、三びきのクマの女の子は悪党だと断定するし、かなりの改変ですが、女性陣が強くて素敵です。特にわたしが好きなのは、オオカミをピストルでいきなり成敗する赤ずきん。「そこで赤ずきんは、パチリとウインク。ズロースのゴムにはさんだピストルをサッととりだして、ズドンと一発、おみまい。」するシーンにはにんまりしてしまいます。(だって、「ズロース」なんですよ!?!) オオカミの毛皮を手に入れるだけではなくプタのかばんまで手に入れる赤ずきんは、まあちょっとやりすぎ感もあるような気がしますが、一筋縄でいかないワルガールなのがわたしは好きです。
クェンティン・ブレイクの色気のある挿絵もダールのお話にぴたりとマッチしています。皮肉の効いたお話が読みたいかたに、おすすめいたします。

ロアルド・ダールは、第二次世界大戦で戦闘機パイロットとして従軍し、生死を彷徨う経験をもとにした小説や、ちょっと不思議な変わった味わいの短編をたくさん書いています。結婚してから児童小説もかきはじめました。たくさん書かれていますが有名どころは「キス・キス」「あなたに似た人」「飛行士たちの話」「おばけ桃の冒険」「チョコレート工場の秘密」映画にもなりましたね。
ついでながらわたしの好きなダールの児童書・・「オ・ヤサシ巨人BFG」「すばらしき父さん狐」「マチルダは小さな大天才」「魔女がいっぱい」



に投稿

第124回 闘う本屋

「ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯」 あすなろ書房 2015年2月発行 179ページ
ヴォーンダ・ミショー・ネルソン/著者 R・グレゴリー・クリスティ/イラスト 原田勝/訳
原著「NO CRYSTAL STAIR」 Vaunda Micheaux Nelson R. Gregory Christie 2012年

1939年に、黒人がかいた、黒人に関する書籍や資料を扱う書店、「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストア」を開いた、ルイス・ミショーの評伝。著者は、ルイスの弟のお孫さん。
最初の品揃えは、書籍5冊だけだったそう。黒人が多く住む、ニューヨーク・ハーレムで本を提供しました。
本を読み、自分たちのルーツを知り知識を得て力とすること。そして肌の色の違いといういわれない差別や偏見と闘ったんですね。
ルイスの破天荒な少年~青年時代、実業家の父と伝道師であった兄など家族のこと、兄を支え教会の仕事をしたこと、44歳でハーレムで本屋を開店したこと、ラングストン・ヒューズの詩を引用したり、書店へやってくるお客さんの言葉、FBIの記録などが年代順に描かれています。黒人解放運動家のマルコムXも常連でたいへん親しくしていたそうです。

「ここに知識がある。きみには、今日、知恵に続く道を歩きはじめることより大切な用事はあるかい?」「あるさ。仕事をみつけなきゃならないんだ!」「頭に知識を入れることより大事な仕事はない」p.67
「きみを死ぬまで支えてくれるのは、頭の中に入れたものだぞ」p.84
本を売るということだけでなく、力強いメッセージを発信し続けました。とても魅力ある書店だったんですね。
もうこのお店はありませんが、知識を求めやってくるお客さんたちで活気あふれるお店を一度のぞいてみたかった。

わたしも古本屋をしていますから商売という観点からも勉強になりました。彼のまねはとてもとてもできませんが。
「わたしは、だれの話にも耳を傾けるが、誰の言い分でも聞きいれるわけじゃない。
話を聞くのはかまわないが、それをすべて認めちゃいけない。
そんなことをしていたら、自分らしさはなくなり、相手と似たような人間になってしまうだろう。
勢いこんで話してくれる人を喜ばせ、それでも、決して自分を見失わずにいるには、けっこう頭を使うものだ」p.161
発行したあすなろ書房がおもに子どもの本を発行しているためか、児童書の区切りで紹介されることが多いようですが、子供だけでなく大人にもぜひ手にとっていただけたらとおもいます。



に投稿

第107回 やつらが大活躍なファンタジー、かがやく剣の秘密

個人的なフェイバリット・ブックをご紹介させていただきます。何度も読み返してきました。忘れられない一冊なんです。絶版で手に入れづらいかもしれませんがお許しください。図書館で借りて読むことができるとおもいます。

「かがやく剣の秘密 小人のミニピン物語 青い鳥文庫」 講談社 1985年7月発行 373ページ
キャロル・ケンダル/作 八木田宣子/訳 楢喜八/絵
原著「THE GAMMAGE CUP」 Carol Kendall 1959年

ミニピン族、別名「小がら族」。彼らの住む谷間は、四方を登ることのできない山々に囲まれていました。出不精で平和が好きなミニピンにぴったりの土地だったのです。指輪物語のホビットをなんだか思い出しますねえ。880年前、この谷間にミニピン族を率いてきたリーダーは「ガミッジ」という名前でした。そしてウォータークレス川にそって12の村を作りました。

そしてこの度、村対抗のコンテストが行われることになりました。どの村が、いちばん裕福でしあわせでうつくしいか、審査員が村をまわって調べるのです。家の庭には木を植え、緑色で塗られたドアであるべき、なのです。
賞品は、「ガミッジのさかずき」。ガミッジの知恵を授けられるという貴重な品です。村の人たちは大興奮。

そしてこの物語の主人公たちのいる、水の上のうわぐつ村には「やつら」とよばれる変わり者たちがいました。緑色のマント、茶色の色で織り上げた服を身につけるというのが「ちゃんとした」ミニピンの服装なのですが、ミニピンらしいきちんとした仕事をせず、ミニピンらしい詩や絵を作らない人びとです。

ウォルター伯爵は、彼しか解読出来ない古い巻物に書かれた宝物をさがす変人です。あちこちに穴を掘っていますが、なかなか宝は見つからない。
カーリー=グリーンは、ミニピニンらしくない赤いマントをはおる絵かきです。そしてミニピンらしい絵を書きません。
ガミーもまたミニピンらしくない詩を書く風来坊です。好奇心旺盛で、「良きミニピンは村にとどまるべし」という教訓を無視し、村をでて山を探検しています。ミニピンらしい詩より楽しい詩「書きなぐり」を書くのです。
ミンギーは、村のお金を管理している厳しい人です。ケチだと言われていますが、病災基金(健康保険のようなもの)を提案するまともな人です。村人が「やつら」を排除しようとすることに抵抗します。
そして、この物語の主役、マグルス。ちょっとおばかさんと思われている彼女は、がらくたを集めるのが好きなのです。(「悪くない性質なのですが」と作者はつぶやいています)すすんで言われることに従いますしいつもにこにこしています。ですが時々、ミニピンらしくないオレンジ色の帯をしめます。

この水の上の上ぐつ村に「やつら」がいる限り、ガミッジのさかずきは、村のものにならないのじゃないか、と追放されることになります。
そして、おかしなことがおこります。誰もいるはずのない、周囲の山々に火が灯っているのをみてしまったマグルス。平和な山あい地方に侵入者がいるようなのですが、水の上の上ぐつ村のリーダーたちピリオド一族に言っても信じてもらえません。

ちょっと変わった「やつら」がとても魅力的でした。
ミニピンこうあるべし、という圧力をはねかえし、自ら村を去るのです。「やつら」が村を「のけもの」にしたのです。村を出て山の家へ旅立った6人の奮闘も見ものです。頼りないとおもわれていたマグルスが、皆に仕事を指図し鼓舞し叱咤し、おいしい料理で釣り、リーダーとして存在感をみせるのがとても面白いんですよね。ガミーの詩「書きなぐり」が章のはじまりに書かれていますがこれが楽しい。気難しいミンギーでさえ、最後には彼の詩をうたいます。あのシーンがすきです。あとマグルスのパットケーキ、ササフラスのお茶というのがおいしそうなんですよね。ササフラスは木全体から柑橘様の芳香がするそうです。ちょっと休憩という時に飲むのがうらやましいんだなあ。疲れに効きそうです。パットケーキというのはホットケーキみたいなもんかしら。魚だんごというのもおいしそう。
そして、ウォルター伯爵の掘り出した宝が大活躍し、この山あいの村を守ることになるのです。

でも実は、この谷間をでることはないので、彼らが小人である必要がないというのがちょっと残念ではあるのですが、とても面白いファンタジーですよ。
続編「ささやきの鐘の秘密」もあります。前巻から5年後。主人公はマグルスたちではなく、水あな村の5人の青年たちが主人公です。山あい地方をおそった洪水の原因を調べに旅立つのです。マグルスたちもごく少しだけ登場。



に投稿

第104回 中学生へのアンケートとその回答の物語

「Q→A(キューエー)」 講談社 2016年6月発行 244ページ
草野たき/著者

「現在仲のいい友だちはいますか?」「自分の両親は好きですか、嫌いですか?」「おつきあいしている異性はいますか?」「将来の夢はなんですか?」「中学生最後の学年です。どんな一年にしたいですか?」
中学3年は、高校受験がせまり、未来の方向を考えねばならない時期です。
5人の中学3年へのアンケート、という形式でお話がすすみます。アンケート?うざい!とならずに、真面目に考えるのは、えらいですね。5人それぞれに悩みがあり、その悩みから今後どうありたいかを真剣に考えアンケートに向きあいます。やはり悩みを解消したい、成長していきたい、こんな自分になりたい・・という気持ちがあるからでしょう。
5人の少年少女のうち、3人のアンケートをかんたんにご紹介。

体質のせいで太れない、痩せすぎな体が嫌いな朝子(アサコ)。4月、中学3年生なって新しい教室へ入るのは違和感があった。一つ一つのアンケートを前に、今までの自分はどうだったか、そしてこれからの一年をどうしたいか、考える。 「Q.どんな一年にしたいですか?」「A. 勝負の年にしたい。」

バレーボール部キャプテンをつとめた征児(セイジ)。夏休み、冬休み、春休みを返上して勝ち抜くチーム作りに取り組んだ、にもかかわらず、三年最後の地区大会も敗退に終わった。残るは受験を残すのみなのだが、燃えつき気力が残っていない。図書券をもらえる、というのに釣られてアンケートを書いてみる。中学生活の総括。今後どうしたいだろう。「どんな大人になりたいですか?」の回答にぐっとくる。セイジくんのおとうさんは、息子にエロ本をくれるちょっと変わった気遣いをします。そんな気遣いはっきり言って相手するのめんどくさいですが、考えてくれてたんだと、年をとったら愛情がわかるんでしょう、キライではないです、ていうかステキです。

不登校になってしまった雅恵(マサエ)。
「学校に来たくなかった理由を教えて下さい」「両親との関係でなにか悩み事はありますか?」「学校生活を再開するにあたり、そのほか不安なことがあれば教えて下さい」
不登校の理由は、恋をして目指したダイエットの失敗。
太っていても、勉強も運動もできて明るい子と過大に評価されるので、ぽっちゃりした自分を気にせずにきたのだけれど、恋をして痩せたくなった。しゅっと痩せてカッコイイ彼の隣に立つのは痩せた自分でありたい。どんなに頑張っても痩せることができなくてダイエットに失敗して入院することになった。もっさり太った自分を受け入れられなくて学校にいけなくなってしまった。太っているけど明るい、というキャラクターである自分が偽りであると思ったのだ。三年生の夏休みに勇気をだして登校した。引きこもったままなのはイヤだ、自分を変えたいと頑張って学校へ来たのだった。

アンケートの後、さらにこのアンケートの答えを再度考える、という構成です。
受験と卒業目前の5人の中学生の新たなアンサー。未来が広がっていることを感じる回答が爽やかで力強いです。

草野さんは、ほかにもたくさんかいておられます。
「ハーフ」茶色の毛並みの犬「ヨウコ」がおかあさんと教えられ一緒に暮らしてきたぼく。大人になるにつれそれは嘘だとわかっていく。どうしてそんな嘘を言ったのか、大人であるお父さんの弱さを責められない。変わった設定ですが読み応えあります。
「反撃」中学生女子5人それぞれが、挫折を経験しつつも明るく前向きにがんばっていく短編集。目指したり憧れたりするのがちょっとかわったことだったりもするんですが、好感がわきました。おもしろかったです。