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第71回 マッチ箱でひいじいちゃんと孫の交流

ポール・フライシュマンは、「ウエズレーの国」で以前、取り上げましたが、こちらも良作です。
じいちゃんがイタリアからアメリカへの移住の思い出を語ります。1910年代頃のお話です。金の採掘の話や蒸気船の挿し絵があります。
挿し絵がとても美しい。思い出部分のイラストはセピアな色調で繊細で素敵です。

「マッチ箱日記」 BL出版 2013年8月発行 38ページ
ポール・フライシュマン/文 バグラム・イバトゥーリン/絵 島式子、島玲子/訳

曽祖父のお部屋に小さな孫娘が遊びにきています。
最初の見開き2ページのお部屋がまずとても楽しいのです。透かし彫りが美しい木の椅子、手回しミシン、ランプ、古いガラスびん、レコードプレイヤー、美しい金具の装飾で縁取られた柱時計、たくさんの小さな箱、たくさんの古書・・・などなどアンティークな品物でいっぱい。わたしもおじゃましたい。
この部屋にある一番すきなものを選んでごらん、そのお話をしてあげよう、とひいじいちゃん。
マッチ箱がたくさんつまった古い古い葉巻の箱を選んだおまごさん、お目が高い。
これは、ひいじいちゃんの日記なのです。文字を読むことも書くこともできなかった少年の頃、マッチ箱に、その日の思い出の品物を入れていたのです。
まずは、オリーブの種。じいちゃんは、イタリア生まれ。家には暖房がなくて寒く床もないようなおうちでした。とても生活が苦しくて、お腹が空いたらオリーブの種を口にふくんで我慢していたのだそうです。

次のマッチ箱からでてきたのは、ひいじいちゃんのお父さんの写真。ひいじいちゃんが赤ん坊のころ、アメリカに出稼ぎにでていました。稼いたお金をアメリカから送ってくれていたんです。ひいじいちゃんは父さんのヒゲしか覚えていませんでした。父さんから手紙が届いた時、みんな困ってしまいました。ひいじいちゃんはもちろん、4人のお姉さんもお母さんも字を読めなかったから。学校の先生のところへ行って読んでもらいました。父さんからのお便りを、うれしそうに聞く一家の挿し絵がいいです。みんな笑顔でにこやかに聞いていますが、ひいじいちゃんは真剣な顔。父さんの思い出が少なかったからでしょうか。寂しいですね。
そして、マカロニの入った箱。雨が振らず小麦が育たなくてマカロニも作れない年があり、父さんへ手紙を書いてもらった。返信とともにアメリカ行きの船の切符が送られてきました。母さんと姉さん4人とひいじいちゃんは、アメリカへ移住することになりました。
船に乗ってから毎朝ひまわりの種をひとつずつマッチ箱に入れました。19個のひまわりの種、船に乗ったのは19日間。船底にいて、ひどい揺れで船酔いに。すごく痛い入国検査がある、という噂を信じてしまったじいちゃん、大泣き。ハリケーンにあって海が大荒れに荒れたりと、たいへんな船旅だったのです。
一家で移住したけれど、暮らしはなかなか向上しませんでした。移住者への差別もありました。石をぶつけられ、歯が折れたこともあります。仕事を探して引っ越しばかり。魚をさばいて缶詰を作ったり、線路を作る仕事をしたり、縫い物の工場に行ったり、家族みんなで必死に働く毎日。
いい思い出もあります。父さんと野球を見に行った時のチケット。ルールを知らず見ていても選手が何をしているのかもわからなかったけれど、夢心地だった。
そうして、ひいじいちゃんは、文字を学び始め、印刷工になる勉強をします。(若い頃のひいじいちゃん、すっごくハンサム!)

本を読み日記を書く、ということをなんてことなく普通にしていましたが、とても幸せなことなのだなあと感じました。文字が書けなかったけれど、マッチ箱の中のもので、鮮明におもいだせる。辛かったことを、優しく穏やかに語るひいじいちゃん。そんなひいじいちゃんを孫娘はきっと大好きになるでしょう。素敵な絵本でした。