に投稿

第58回 釣れすぎて、自分で釣ってる気がしない釣り竿

『とのさまと海 〜新作落語「殿様と海」より(古典と新作らくご絵本)』 あかね書房 2016年9月発行 32ページ
三遊亭白鳥/作 小原秀一/絵 ばばけんいち/編

「古典と新作らくご絵本」のシリーズは思い切ったイラストで面白いです。その中でも、一風変わったイラストなのが、これ(とおもいます)。

10年間、釣ったことがない・・という殿様が釣りに行くというのです。10年間とは、かなりのもんですよね。
もし、明日、釣れなければ・・・切腹を申し付けられるかもしれない、とお困りの家来の三太夫さん。
釣具屋”魚鱗堂(ぎょりんどう)”六代目の助蔵に、よく釣れる釣り竿が欲しい、と相談しています。「我が先祖、初代・魚鱗堂・助蔵」という、秘伝の道具を持ってきました。なんと、初代・助蔵の骨でこさえた竿なのです。自らの骨を竿にする釣具屋・・こちらもかなりのもんですよね。
「釣れすぎて、自分で釣ってる気がしない釣り竿」という優れものの釣り竿であるとのこと。なんだか含みのあるコトバですが、いいんでしょうか。

さて、翌日。
お殿様と家来の三太夫は海に乗りだします。お殿様の顔が”へのへのもへじ”ですが、でも、なんとなく品があるのが面白いです。着物の色のせいかしら。
”初代・助蔵”、なんとしゃべる釣り竿なのです。魂が宿っているので、持っているものとだけですが、会話ができる。スゴイ設定ですねえ。釣りヘタな殿様へのコトバが容赦なくて面白い。
初代・助蔵が、魚がかかると合図しているのです。引きどころを教えてくれるんです。だから、必ず釣れる。そして、”自分で”釣ってる気がしない、とはそういうことだったんですね。
この殿様、10年間も釣れなかったのは、大物ねらいだったからなのです。小物は捨て置け、と相手にしません。なるほど、と”初代・助蔵”。やる気がとたんにでてきます。よし釣らせてやろうと、本気モードの初代・助蔵が、格好いいったら。
初代・助蔵が、伸びに伸び、殿と家来の乗っている小舟より、大きなマグロに巻きつきます。その挿絵の楽しいこと。歌川国芳の「相馬の古内裏」(大きなドクロの絵)を彷彿とします。 大物がかかった竿が ぐうぅっ と弧を描いてしなります。「殿、竿が満月のようでございます!」
落ちは、言わないほうがいいですよね。続きはよろしければ絵本もしくは落語にてどうぞ。

お話はもちろんですが、挿絵がすごいです。魚鱗堂の家紋が凝ってますし(漢字ですので小さな人だとちょっとわかんないかもしれませんけど)、文字で海の波や泡を表現したり、初代・魚鱗堂が骨になって竿になるまでを漫画風に演出したりと、面白い。大人も満足な絵本だとおもいます。
落語として演じられた時、どんなだろうか、と想像するのも楽しいです。実際に噺家さんが演じているのを聴いてみたいですね。