並行世界とは「この現実とは別に、もう一つの現実が存在する」ということだそうです。
今回はその「並行世界」のお話をご紹介。別の現実へまぎれこんでしまった小学生の奮闘(というほどでもないですが)が面白く、小学生たちがSFを読むとっかかりにちょうど良いと思います。
「おれからもうひとりのぼくへ (おはなしガーデン53)」 岩崎書店 2018年8月発行 94ページ
相川郁恵/作 佐藤真紀子/絵
小学四年生、大岡智。友人のまさと、しょうへいと遊ぶため、公園へと出かけたのだけれど、やってこない友人たち。約束を忘れたのかも?と友人宅へ行き確かめると、彼らは二人で遊んでいて、約束なんかしていない、と言われます。なんだか様子がヘン。おれと遊ぶのは、初めてのような、居心地の悪い顔をしている。まさともしょうへいも、2人共、落ち着いて頭が良さそう。本が好きでいろんなことを知っている。普段はお調子もので本なんか読まないのに。
家に帰れば、部屋のサッカー選手のポスターがない、そのかわりに本棚にぎっしりの本。本なんか読んだことないのに。父ちゃん、母ちゃん、姉ちゃんもなんだか優しくて、ヘン。元気のいいおれが珍しいらしくしゃべることに、いちいち笑ってくれる。
学校のクラスメイトも、ヘン。普段、大人しいやつが威張っているし、いつも何も言わない静かな委員長の女子はきちんと発言・注意をする。誰も彼もが、なんだかいつもと違うのです。
この世界の「ぼく」は、本が好きで大人しくて、友人がいなかったようなのですが、「おれ」が物怖じしない性格のため、人に関わります。そのおかげで、ここがパラレルワールドであることが判明しますし、関わり合う人たちのあの世界とこの世界での性格の違いを比較して、クラスメイトたちの人間関係を推測するのですが、そこがうまいとおもいます。この世界ではただのクラスメイトだった、まさと・しょうへいは、あちらでもこちらでもぼくたちは親友となる運命だったんだよ、と言ってくれました。少年たちの友情に、ムネアツ。
こちらの世界にも愛着がわいてきた「おれ」は、もとの世界へ帰るのでしょうか、帰ることができるのでしょうか。
佐藤真紀子さんの挿絵も、ブルー基調でかわいらしすぎずにかわいらしくてグッド。少年たちも手に取りやすいのじゃないかしらと思います。面白い小説でした。
第34回 福島正実記念SF童話大賞を受賞のこと。