「ヤマネコ毛布」 復刊ドットコム 2015年2月発行(もとは2007年パロル舎で発行) 40ページ
山福朱実/作・画
旅に出ようとおもう、というヤマネコが突然ハリネズミに告げます。引き止めることもできなさそうな決意みなぎる表情のヤマネコ。
次のページでは、手を上げ立ち去るヤマネコ、ハリネズミがぽつりと立ちつくす。言葉はなく絵のみ。ハリネズミの驚きがくっきり伝わってきます。
なぜ急に?どういうこと?と置いてきぼり感もありますが、まあじっくり見てまいりましょう。
ハリネズミは、森に住む動物たち(サル、クマ、トラ、カワウソ、オオカミ、トリたち、ウサギ、リス)に、針と布(おそらくハリネズミの針も一緒に)を配って言います。
「ヤマネコが森をでていく。おもいでを ししゅうして プレゼントしよう。」
それぞれが語る思い出を心を込めて刺繍します。サルは、ヤマネコをつかんで木から木へびゅんびゅんわたった楽しい思い出。クマは、冬眠中にヤマネコがクマをコタツがわりにしていたこと。トラは、二匹で思い切り爪とぎしたこと。ハリネズミは、ハリが邪魔で食べづらそうだと言われた月のきれいな夜を。トリたちは、フンの雨をヤマネコにおとしたこと。リスは、追いかけられた恨みがあるので刺繍を拒否。
いい思い出ばかりでなく、良くないのもあるのがいいですねえ。面白いです。
ヤマネコ自身はあまりしゃべらないのですが、思い出によってどんなやつだったのかがわかります。出来上がった布地を合わせて毛布にし、旅立ちの日に贈りました。リスも意外な贈り物。旅の道中、ヤマネコが凍えることはきっとないでしょう。
別れがテーマなのですが、まったく悲しくなりません。唐突の旅の理由というのもあかされず、不思議な読後感です。わりと奔放な感じがするヤマネコなので、まあヤマネコらしい。ヤマネコは一体どこへ行ったのか、考えるのもまた楽しい。
山福朱実さんの版画の挿絵が楽しいです。食欲で眼がギラリ光るヤマネコが怖くていい。思い出のページはデザイン性ばっちり。
ほかの児童作品に「ぐるうんぐるん (わくわくたべものおはなしえほん)」「地球と宇宙のおはなし/チョン・チャンフン・文」「きたかぜとたいよう(イソップえほん)/蜂飼耳・文」があります。