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第145回 怖がり屋の少年の大冒険。

「ローワンと魔法の地図」 あすなろ書房 2000年8月発行 216ページ
エミリー・ロッダ/著者 さくまゆみこ/訳 佐竹美保/画家
原著「ROWAN OF RIN」 Emily Rodda 1993年
シリーズ「ローワンと黄金の谷の謎」「ローワンと伝説の水晶」「ローワンとゼバックの黒い影」「ローワンと白い魔物」

冒険ファンタジー全5巻のシリーズです。訳者あとがきで、1巻から順番に読まなくてもだいじょぶです、という文章がありますが、わたしは1巻から読むことをおすすめいたします。
その理由はといいますと、主人公のローワン少年がどんな冒険を経験し、どのようにくぐり抜けてきたのか、成長の度合いがわかるからなのです。巻が進むにつれ、ローワンの住むリンの谷のこと、リンの民の先祖の秘密のことなどが、次第に判明していきます。謎が解かれていく過程が、非情に楽しいのです。5巻ラストにたどりついた時、強い満足感があります。もしお手にとられるのであれば、ぜひ1巻から、読んでみてください。

「リンの谷」に住む、ローワン少年が主人公。年齢は小学高学年~中学低学年くらいでしょうか。内気で臆病な性格です。年齢の割に体が小さくて弱いため力仕事に向かないローワンは、バクシャーという家畜のお世話係。その年にもなってまだバクシャー係をやっているのか、と見下されています。ローワンは、父を幼い頃に亡くし、母と妹の三人ぐらし。父のかわりになれるくらい強くてたくましい体ではなく、そのうえたいへんな怖がり屋のため、お母さんも含め村の誰にも認めてもらえないという疎外感を感じ、自分は役立たずだ・・という深い深い孤独感にとらわれています。
たいていの冒険ファンタジーの主人公は冒険心にあふれたくましい、というイメージが多いのじゃないかとおもうのですが、それとはちょっと違うキャラクター設定ですね。わたしもさほど勇気のある人間ではないのでとても共感し、応援したくなります。

1巻のあらすじ~~
竜がいるという伝説のある山から下ってきていた川の水が、なぜか流れてこなくなってしまった。川の水がなくなれば、家畜のバクシャーは死ぬよりほかなくなってしまう。川の水が流れなくなった理由をさぐるため、謎に満ちた危険な山に登ることになります。
第1巻のローワンくんは、まだまだ冒険が始まったばかりのため、とても頼りないです。山に登るというだけで、おびえにおびえています。冒険心あふれる年上の強い6人の村人たちに、初めての旅に半強制的に連れ出されたという状態のため、冒険に対する心構えがまだ足りていません。厳しく恐ろしい罠が満載の辛い旅の中で、旅の仲間の気持ちを慮ること、なぜ旅にでたのかの理由をしっかり自覚していくことで、バクシャーからの信頼に応えようと強くなっていきます。

面白いのは、登場人物たちがこまかに描かれていること。
リンの村のリーダー「ラン」はとにかく厳格な女性というふうに1~4巻では描かれていますが、第5巻では若い頃の失敗やあやまちのこと、特にローワンに対する態度が厳しい理由が明かされます。
旅の仲間である「アラン」。彼は、お母さんはリンの民、お父さんは〈旅の人〉という流浪の民、ふたつの民族の間に生まれたひとです。幼い頃は旅の人として暮らし、旅の人であるお父さんがなくなったためリンの村へ母とともに戻ってきたという過去があり、彼もまたリンで疎外感を感じて育ちました。リンの人々に受け入れてもらうため、悲しみを見せないように、陽気さを武器に生きてきたのです。ちょっと複雑なアランがわたしは一番すきですねえ。
そして家畜のバクシャー。アメリカバイソンをもっと毛を長くしたようなウシ科のような生き物です。小さな子供にだってお世話ができるくらいとてもおとなしくて、賢いのです。ローワンは彼らが大好きで大事にしているので、仲良しです。群のリーダー「スター」から特に深い信頼を得ています。彼らとの強い絆もまた物語の鍵となります。
「ブロンデン」という家具作りの女性も、なぜか結構好きなんですよね。ローワンの弱さが許せない、意地悪な発言が多くて、自分の目で見たものしか信じないという頑ななひと。ですが最後にはローワンを認めてくれるのがうれしい。
そして「シバ」。村人のために薬を作ったり、困ったことがあれば助言したりする〈賢い女〉とよばれるひとです。ブロンデンのようにこのひとも意地悪で、クチをきけばたいがい悪意のある不愉快になることばかり言うので、魔女なんてよばれています。弱いローワンを厳しい言葉でひどくからかいます。けれど、旅の助けになる「詞」を教えてくれる、重要人物。彼女もおそらくローワンのように弱い子供で、村人に見下され役立たずと言われたのではないでしょうか。悪意ある言葉でひとを攻撃することで自分をまもってきたのじゃないかと想像しました。イジワルですがわたしはかなり好きな人物です。
ほかにも、1巻の旅仲間「ストロング・ジョン」、旅の人のリーダー「オグデン」と養女の「ジール」、海の民マリスのリーダー「ドス」や友だちの「パーレン」、巻の後半に仲間となる「シャーラン」など、魅力ある人々がたくさん登場。
シバの助言の「詞」について、アレコレ話して謎をといていくのも、楽しいです。

一見強そうな人にもどこか弱い部分があります。さらりと書かれているのだけれど、ひとりひとりに背景があり、物語に奥行きを感じます。強いとされる大人たちが弱点のために、冒険の途中で脱落していくのですが、ローワンが怖がりながらも自分の弱点を受け入れ、必死に勇気をふりしぼって進む姿に、胸が熱くなります。
難点を一つあげるとするならば、ひとつひとつの巻が短く感じて、少ーし物足りないこと。もっと読みたい・・という気持ちになります。
佐竹美保さんのさし絵も、ローワンの世界をよく捉えていて楽しいです。
2000年前後あたりはたくさんファンタジーが発行されましたが、このファンタジーが一番好きでした。おすすめします・・
作者のエミリー・ロッダさんは、ほかにもファンタジーのシリーズをかいています。「デルトラ・クエスト」シリーズ、「ティーン・パワーをよろしく」シリーズ、「フェアリー・レルム」シリーズ、「ロンド国物語」「チュウチュウ通りのゆかいななかまたち」シリーズ・・などたっくさん。