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第12回 だめな自分という絶望

「となりの火星人」 講談社 222ページ 2018年2月発行
工藤純子/著 ヒロミチイト/装画・挿絵

おのおの悩みを抱える4人の子供たち。
相手の気持ちを慮ることに疎い、かえで
怒りに支配されてしまうことに怯えている、和樹
不安になるとパニックになってしまう、美咲
相手が壁を作っているのを感じる、天然で優しい、湊
中学受験に失敗し挫折感に潰されそうになっている、聡

 連作短編7話が収録。かえでを中心に話がすすみます。
かえでは、相手の話すことを「言葉通り」に解釈してしまいます。”一番厄介なのは、人間の感情だ。表情と心の中が違う。いってることと、やってることが違う。親切そうに見せかけて、ウソをつく。” ”道徳(の時間の問題)は難しい。正しい答えが分からないから。”それでも自分の返答や行動で相手が困ったり、悲しませたりすることを恐れ、人の気持ちを理解できない自分はダメだ、と絶望を感じています。

 和樹は、怒りに支配されると暴れてしまいます。今日も、ズボンが破れているのをからかわれ、怒りで頭が真っ白になって教卓をけとばし大きくヘコませてしまいスクールカウンセラーと面会させられています。問題を起こす困った子と言われて、いつもお母さんを悲しませていることに絶望を感じています。
整理整頓が出来ないという自らの弱さも見せながら、子供たちの心に寄りそうスクールカウンセラーの真鍋先生や、「これからは人と違うことが大切な時代になる」というかえでのおばあちゃんがいい味をだしている。大人だって、子どもだって、みんな、たくさんの人に助けられて生きている。

 「ダメな子なんて、一人もいない。」とふっと感じるかえでに希望を感じほっとします。
繊細で人とコミュニケーションをとるのが上手でない子供たちを「火星人」と表現したことにとても驚きました。とってもストレートな言い方に感じます。が、なるほどうまい言い回し。感じ方によっては悪口になるかもしれませんが、誉め言葉にも励ましにもなるとわたしは思います。人との関係で辛さを感じるけれど、さらに人と関わることで心が成長したり希望を感じたりします。辛い気持ちでいる子どもたちを導くことのできる真鍋先生の存在がすばらしい。読んでよかった・・と感じる児童文学でした。