「天使のにもつ」 童心社 2019年2月発行 223ページ
いとうみく/著 丹下京子/絵

中学2年生、斗羽風汰(トバ フウタ)。
あるお店・会社へ行って5日間お手伝いするという「職場体験」に、保育園を選びました。ちびっこの相手してればいいんでしょ、楽そう、というのが理由。
返事を「はい」ではなく「うん」って言っちゃうし、前髪をちょんまげみたいに結わえていて、語尾も「~っす」だし、体験先へパキパキに折れあとのついた書類を平気でだしたりする。
今の中学生にしてもちょっと世間知らずな感じ。敬語・丁寧語の存在すら知らなさそうなそんな中学生が、保育園に職場体験なんてだいじょーぶなのかい、と心配になる始まりだし。
案の定、保育士の林田先生は、中学生にしたって幼稚で無礼なフウタにかちんときている様子。それはそうでしょう、保育士としての技術も心得もないうえに、かる~い気持ちでやってきた少年を受けいれて仕事を教える、ってすごく大変ですよね。度量の大きな保育園ですよほんとに。

職場体験がはじまるというのに、おまけに子犬まで拾ってしまう風汰。団地なので引き受けるわけもいかないのに先を考えず連れ帰って倉庫にかくまってしまいます。そんなとき、まーくん先輩という3歳上の近所のおにいちゃんが手助けしてくれます。まーくん、いい子です。

保育園には、家庭事情が様々な子どもがいます。
2・3日で治るほっぺのひっかき傷に腹を立てて怒鳴り込む親。仕事があるからと熱を出た子供を迎えに行けぬ親。
風汰の通う保育園にも、児童虐待されているおそれのある子供がいます。しおん君、4歳。
こどもたちは、おかあさんおとうさんが大好き。うそをついても嫌われるようなことはしない。愛されたくて、困らせたくなくて、そばにいてほしくて、むりやり笑顔を作る。まだ4歳なのに。

愛されない子どもを助けるには、風汰は子どもなのです。自分が無力であることを素直に受け止め、それでも今何ができるかを考えようとしています。
危機にある命を守るために、自分なりに手をのばすということ。風汰の成長がとても心地よい。

そして、ほかの登場人物も魅力的です。
風汰を受け入れてくれた保育園の園長先生。
「子どもがどうしたらその子らしく、幸せに生活することができるか。その子の持っている力を引き出すことができるか。正しい成長や発達を遂げることができるか、とかね。そういうことを考えて保育しているの。」たったの5日間だけしかやってこない世間知らずの風汰にきちんと向き合って説明しています。ほんと度量の大きい素敵な大人です。
林田先生も、わかりやすく例えで説明しようとしてくれます。「保育園はサービスじゃない。お母さんのためじゃなく子どものためを第一に考えてるんだってこと」。
そして、まーくん先輩。彼の職場体験は老人ホームでした。曾祖母が認知症による徘徊をし交通事故にあったという体験を話してくれます。風汰がしおんを心配する気持ちを察して寄り添ってくれます。ほんと、まーくん、いい子。
みんな、風汰を支えてくれています。

作者のいとうみくさんは、「糸子の体重計」「かあちゃん取扱説明書」「車夫(3巻まで既刊)」「カーネーション」「唐木田さん物語」「トリガー」などたくさんかいておられます。ユーモアのある軽い口調のお話もありますが、「カーネーション」はかなり強烈なYA作品。娘を愛せない母・母に愛されたい娘の厳しい状況を描いているかなり重いお話です。
どれも読み応えがあります。よろしければ手にとってみてください。