ラストにふるえがきちゃうこの児童文学が大好きなのですが、ねたばれさせずにご紹介するのは難しいお話。想像がついちゃった、という方には先にお詫びいたします。わかったとしても素晴らしいお話ですので、よろしければどうぞ手に取ってみてください。

「トムは真夜中の庭で」 岩波書店 邦訳初版は1967年12月発行 304ページ
フィリパ・ピアス/作 高杉一郎/訳 スーザン・アインツィヒ/挿絵

今年の夏休みは、リンゴの木にツリーハウスを作るという楽しい計画をたてていたのに、弟がはしかにかかってしまいました。病気がうつらないようにと叔母の家へとあずけられることになったトムのお話です。
叔母と叔父の家は、昔は一軒の大きな邸宅だったものをいくつかに区切ってアパートになったものでした。立派な建物ですが、敷地は狭く小さな庭すらもない見知らぬ建物にはよそよそしさを感じ馴染めそうにありません。ただ玄関ホールには、00分になると時刻の数だけ鐘がなる大きな柱時計がありました。ですが、ただしい時刻どおりに時を打つことがありません。少なかったり多かったりと不正確なのですね。大きな鐘の音が2階の部屋にいても聞こえます。この時計には心がひかれています。けれど案の定、時計にはさわってはいけません、と叱られます。3階に住むこの邸宅の持ち主、バーソロミュー夫人がとても厳しい人だから。

すでにはしかに罹っている可能性もあるので、外にはだしてもらえません。叔母は大事にしてくれますが、仲の良い弟や両親のもとから強制的に隔離されてしまったトムの寂しさがぎりぎり伝わってきます。運動不足や外にでられないストレスなどで眠れずにいると、あの大きな時計が13も鐘をならしました。13時なんてありはしないのに。階下へおり、外への扉をあけると、素晴らしい庭が広がっていました。こんな庭はないはずなのに。木登りできる立派なイチイの木、ヒヤシンスが咲いて、温室もあって、かくれんぼしほうだい、広くて美しい庭に夢中になるトム。どうやら、時計が真夜中に13の時を打つと、この素晴らしい庭へと行けるようになるのです。夜になるまで、じっと我慢。それがまたわくわくを誘います。この庭は不思議です。時が戻ったり進んだりするのです。しかも、庭園で出会う人にはトムが見えていないのです。

しかし唯一、トムを見ることのできるハティ・メルバンという少女に出会い友達になります。ちょっと嘘つきで夢見がちな女の子でしかも年下なのが、ちょっと不満だけど。実はハティは両親を失った寂しい身の上であることがわかります。トムは決してばかにしたりはしません。理屈っぽい叔父には反発して生意気を言いますが孤独なハティに優しい。それがうれしいんですよね。
会うたびにハティはどんどん大人になっています。この素敵な庭にトムがやってこられるのはなぜなのか。大時計とこの庭が関係あるようですがそのなぞにせまることができるのか。凍りついた川をスケートで遠くの町まで滑っていくの二人の冒険の最後の切なさ。この美しい庭園を共有した時間とそして最後に庭を失ってしまった二人の想いに何度読んでも涙がこぼれてしまいます。
ラストまで一気読み。ためいきがでます。現在のこどもたちにもわかるよい児童文学とおもいますが、ほんのり胸のあたたまる思い出や時の過ぎいく切なさを知る年齢の方々にはもっと共感できるのではないかとおもいます。