イングランド、青銅器時代が舞台、少年の成長を描いた物語。愛犬との絆、友情、少年から青年への通過儀礼、とどきどきわくわく、てんこもり。
青銅器時代とは、青銅(錫と銅を合わせた金属)を使った金属の道具が使われた時代で、石で作った道具が主流だった石器時代よりも、農業や社会が大きく発展していった時代です。石器時代に有力だった部族は、青銅を発明した部族に支配されるのです。主人公は、青銅を使い発展した部族に属しています。青銅よりもさらに強く硬く加工も難しい鉄を使った道具も、あらわれはじめた時代でした。
「太陽の戦士」 岩波書店 1968年12月発行 328ページ/岩波少年文庫版 2005年6月発行 396ページ
ローズマリ・サトクリフ/作 チャールズ・キーピング/さし絵 猪熊葉子/訳
原著「WARRIOR SCARLET」 Rosemary Sutccliff 1958年
紀元前900年、青銅器時代。
9才の少年、「ドレム」が主人公です。今のイングランドの丘陵地帯で部族の人々と暮らしています。部族の男たちは、15歳になると戦士になる儀式を受けねばなりません。獲物を追う方法、武器を扱う技術などの技を学び、一人で狼を殺すという試練に挑みます。
しかしドレムは、6年前にかかった病のため右腕が使えません。今までは左腕だけで不便は感じてはいなかったものの、試練に挑むには不利。失敗すれば、死か、部族のもとを去らねばなりません。片腕しかきかないドレムは儀式に失敗するだろう、と家族に思われていると知り、悲しみのあまり家をとびだし暗い森の中へ逃げ込みます。
たったの15歳で、こんなにも厳しい試練を受けねばならないなんて。手加減なしの容赦ない世界です。戦士の試練以外にも、片腕が使えないというハンディにより同年代の若者たちからの排除も経験します。
そんなドレムにも味方がいます。愛犬の狼犬ノドジロ。族長の息子ボトリックス。やはり片腕しか使えない狩人の名人タロア。そして、羊飼いのドリ老人との同情のような友情のようなつながりが興味深いんですよね。部族は、羊飼いのかれらを支配しています。ドリ老人もやはりドレムはおそらく儀式に失敗し、部族から立ち去ることになって羊飼いになるだろうとおもっていたのでしょう。支配者層の少年を受け入れるということに、抵抗の気持ちはあったんじゃないかとおもいます。けれど、厳しくもドレムが立派な羊飼いになるように教育してくれました。
挫折を経験し、困難を乗り越え、ドレムは成長していきます。弱いものや愛するものを守りたい、そんな一本芯の通ったすがすがしい児童文学でした。
ドレムの暮らす丘陵地帯や森の暗さといった風景の描写も多く、当時の暮らしぶりを思い浮かべると楽しいです。特に羊飼いの過酷な暮らしのにはどきどき。
ローマン・ブリテン四部作「第九軍団のワシ」「銀の枝」「ともしびをかかげて」「辺境のオオカミ」のローマ・ブリテン四部作やケルト・ギリシャ・アイルランドなどの神話や英雄をもとにした物語をたくさんかいておられます。自身も足に不自由があったためか、足や手に障碍のもつ主人公がよく登場します。