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第110回 かきねをこえてすぐそこの文化の違いを楽しむ

著者のバルト・ムイヤールトはベルギー王国、挿絵のアンナ・ヘグルンドはスウェーデンの出身です。
ベルギーはオランダ語(フラマン語)・フランス語・ドイツ語の3つの公用語の地域があります。日本で生まれ日本語で育った私には、同じ国で3カ国も使われるなんてとても不思議に感じてしまいます。話す言語が違っても一つの国にまとまるということに安心します。ちなみにムイヤールトさんはフラマン語を話す地域ブリュージュの出身。

「かきねのむこうはアフリカ」 ほるぷ出版 2001年8月発行 32ページ
バルト・ムイヤールト/文 アンナ・ヘグルンド/絵 佐伯愛子/訳
原著「AFRIKA ACHTER HET HEK」 Bart Moeyaert Anna Hoglund 原著の発行年記載なし

同じ作りの建物が8軒並んだ家とその裏には庭がある、そのうちの一軒にぼくは住んでいた。たいていのうちの庭は、物置があって芝生がきれいに刈り込まれ、菜園が作ってあるんだけれど、隣のおうちの庭はほったらかしで草がぼうぼう生えている。そのおうちには、フランス語を話す男の人が住んでいて、きれいな茶色の肌をした奥さんがいて名前は、デジレーさん。ぼくとぼくの家族はフランス語を話せないので、お隣さんとは今まで仲良くしてこなかったようですね。垣根ごしに隣家を観察してます。興味津々なのがなんだかおかしい。
4人の子供とデジレーさんは、陽がさすと、草が生えっぱなしの庭の真ん中に椅子を持ち出して過ごします。挿絵では、デジレーさんの表情は明るくありません。元気のない思いつめた表情なのが心配です。

デジレーさんは、ある雨の日、自分の国のことばの歌を歌いながら、庭の物置を壊し始めます。彼女のお国は、アフリカのカメルーンなのです。物置を壊しているのを垣根ごしに観察していたぼくににっこり笑います。満足そうです。いつも悲しげな表情だったのに楽しそうに過ごしているので読んでいてほっとします。
それから、穴を掘り粘土をねって、家を作り始めます。楽しそうに口笛を吹きながら、何日も何日も。
粘土が乾けば、ブルドーザーを使っても壊れないんだそうです。家となるのですからやはり頑丈に出来上がるんですね。
同じ作りの家と庭に住むご近所さんたちは、変わったことをしだしたデジレーさんに、ルール違反をしている!と怒っています。
ぼくは垣根ごしに、デジレーさんの粘土の家作りを見守ります。ぼくのお父さん・お母さんも、興味津々。
アフリカってどんな国なんだろう?って想像するぼく。ライオンとサル。それ以外は何も知らないんだと気がつくぼく。

両親がデジレーさんに肯定的な口調なのも安心します。いつも悲しげなデジレーさんが楽しそうだから、ぼくの両親も興味を持って「お手伝いましょうか?」なんて言い出したり、雨の中を働くデジレーさんにお茶をあげたりしたのかな。自分たちのおうちのお隣さん、垣根を超えたらすぐそこにあるちょっと違う知らない世界。自分たちとは違う他国の文化に興味を持って受け入れる、ってちょっと違和感や抵抗感を感じたりしてしまうこともあると思いますが、異質だ!と排除するより楽しい。素敵な一家ですね。
デジレーさんが作った粘土のおうちは、カメルーンが懐かしくて寂しい時、家に飽きた時、過ごすんだそうです。別荘ですね。いいなあ。粘土のおうちに招かれたら、わたしはすごくうれしくってはしゃいじゃいそうです。
前見返しとうしろ見返しの挿絵に違いがあるのが楽しい。