「白狐魔記1 源平の風」 偕成社 1996年2月発行 221ページ
斉藤洋/作 高畠純/挿絵
今回は、歴史ファンタジーをご紹介いたします。
野生の生物たちが、生きていくうえで一番警戒すべき生物「人間」。人間の矛盾する考えや行動に興味を持った、キツネがいた。人の言葉を覚え放浪するうち、殺生してはいけないという白駒山に入り込み、”仙人”に出会います。仙人もまたキツネで、大変に長生きをしていて様々な術が使えるのだという。仙人のもとで修行し変身術を伝授してもらう。
人はなぜ人を殺すのかという問いの答えを探し、キツネは世の無常や人の感情を知る旅に出る。
この斉藤洋という作者は、設定が細かい(理屈をひねるというか)のが持ち味で、そこがおもしろいのだと思います。
例えば狐にはシッポがありますが、ヒトにはありません。狐がヒトに変身する際、シッポという存在をどうするか、という問題には、シッポは「空(クウ)」という状態にする、という理屈を編み出すのです。最初は、シッポをなくすことが出来ずにいたキツネでしたが、ある人物たちとの出会いと別れによりシッポを「空」の状態にすることが出来るようになるのでした。
その人物が、源義経(とその部下)なのです。
1巻は平安時代→ 2巻・鎌倉→ 3巻・室町初期→ 4巻・戦国時代→ 5巻・江戸初期→ 6巻・江戸中期 ・・と50年~250年を「眠る」ことにより、キツネは時間を乗り越え、様々な人々に会い時代を体験します。
源義経、 楠木正成、織田信長、天草四郎時貞、浅野内匠頭・吉良上野介など、大きく歴史を動かす人物と関わるのが面白いです。「天草四郎」は私は意外な解釈と感じました。歴史が苦手な人でも楽しめる児童文学とおもいます。
キツネの師匠の仙人の素性など明かされないままですし、キツネと同じように時を越え歴史に関わる妖狐の雅姫(つねひめ)という存在もいて、彼女も気になるところ。次巻がとても待ち遠しいシリーズ。
キツネが現代を見たらどう感じるでしょうか・・
2019年10月現在「源平の風」「蒙古の波」「洛中の火」「戦国の雲」「天草の霧」「元禄の雪」 6巻まででていて、今年11月に7巻「天保の虹」が刊行です。すごく楽しみです。